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先生、この点滴は必要でしょうか?

 

 ニッポンに帰ってきて、あまりの異様な光景に驚いたことがあります。

 

 それは、診療所や病院外来で、多くの患者さんが点滴を受けていることでした。それも脱水症状や電解質の異常でもなく、ただ疲れたとか風邪を引いたからといった単純な理由で医師に点滴をねだっていたのです。

 

 病院側も点滴は診察料よりも点数が良く、収入が増えるので、外来で医師も患者さんから点滴の要請があれば喜んで応じていました。これは、本当に不思議な光景でした。しかもそれが偽薬効果であったにせよ、患者さんは点滴を受けると気分がよくなったのでしょう、満足して帰っていくではありませんか。

 

 アメリカの例ばかり出して恐縮ですが、アメリカではこのような点滴は、医学的に効果が見られないため、JCAHOやHCFAなどの病院機能評価機構により厳しく審査され、病院のデメリットとして批判されてしまいますから、そのような理不尽な点滴は、病院外来のみならず院内でも行われません。

 

 なぜ、ニッポンでは点滴が平気で行われるのでしょうか。これもまた、ニッポンの医療がグローバル・スタンダードから外れた典型的な例なのかもしれません。

 

 点滴は、注射針一久が静脈に刺し入れられると言っても侵襲的医療であることは問違いありません。その証拠として、最近、点滴に消毒液、ミルク、空気などが注入されて患者さんの死をもたらした症例がマスコミに報道されているではありませんか。最近の報告によれば、頻発している薬の事故の三十パーセントは、注射、点滴による事故です。

 

 さらに困ったことに、前に説明したように、ニッポンの病院では一人の看護婦さんが診る患者数がどの文明国より多いと言われています。ナースコールで多忙な看護婦さんが、多くの患者さんの看護とともに、多数の点滴を開始し、管理するのですから、医療ミスを起こす確率が高くなるのは当然のことでしょう。

 

 多くの点滴医療ミスが発生しているのにもかかわらず、依然として多くの点滴がなされているのをみると、病院や医師の認識の甘さには、唖然とするばかりです。

 

 点滴は、アメリカでも昔はよく小児の下痢の治療に使われました。

 

 しかし、約二十年前に、アメリカの小児科医たちが、小児の下痢の点滴治療の妥当性に疑間を持ちはじめ、囗から電解質溶液(飲料)を与えると点滴と同様な効果をもたらすことを発表したのです。

 

 その結果、もっとも権威のあるネルソンの教科書もWHOも脱水状態の治療として点滴の代わりにこれらの飲料水を与えることをすすめるようになり、これら多くの経口電解質溶液で下痢の治療を行い、アメリカの病院では点滴が非常に少なくなったのです。やがて、ペディライト、デハイドライトという味の良い飲料が広範に市販されて、現在では小児の下痢には一切点滴をすることがなくなりました。この溶液のおかげで、かなり、看護婦さんたちも時間と体力の浪費から免れたようです。日本でも清水製薬から、経口溶液が発売されているのにもかかわらず、あまり使われていないのは、不思議です。

 

 もちろん、糖尿病昏睡または、いろいろな代謝性アシドーシスのような急病で水が飲めない患者さんで血液中のナトリウム、カリウム、カルシウムなどの電解質の濃度の変化が激しく、口から水分や電解質の補給ができない場合には、点滴が必要です。しかし、患者さんがそのような状態に陥ることは非常に稀ですから、アメリカで点滴をしているところを見ることは少ないと言っていいでしょう。

 

 結論から言えば、院内で患者さんに与えられている多くの点滴は、実は不要であり、アメリカの病院のように、経口の飲料に代えて、医療ミスを少なくすべきだと思うのですが、どうでしょうか。

 

 もし、入院中に点滴が行われた場合、「先生、この点滴は必要でしょうか?」とI。度、聞いてみてください。「点滴しか方法がない」と答えるような医師がいる病院は、かなり医療ミスが発生する危険度が高いと思っていいかもしれませんね。

 

『名医発見』中野次郎著より