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医師を選ぶ条件は、学歴ではない!

 

 医療に関してつねに真摯な医師は、ラーブ教授ばかりではありません。世界各国には、く

さんいると思います。

 

 彼らは、患者さんに対してだけでなく、医学生をはじめ、医師養成、病院経営に至るまで、医学そのものに対して真剣に立ち向かっています。「医師とは何であるか」という根本的な原点に立ち、すべての人類の健康のために、わが身を挫けている彼らこそ、私は「名医」だと思っています。

 

 ニッポンでは、よく売れている週刊誌に、しばしば名医の名前、勤務先の住所、電話番号のリストが発表されます。あれはどれほど役に立つのでしょうか。

 

 それらの医師が、本当に高度の医療技術を持つ、立派な人格者なのでしょうか。

 ニッポンの医師は、どこの大学の出身であるかは明白ですが、卒業後、どれだけの研修をど

こで受けたかはまったくもって不明です。ましてのこと、あなたの言う「心あった「医師」で

あるかどうかなど、わかるはずもありません。

 実は医師を選ぶ大切なポイントは、職歴です。医師がどの病院で誰の下でどのような訓練

を受けてきたかという「職歴」がどれだけ大切かを、まず患者さんは知っておいてください。

 ニッポンの患者さんたちが「この先生は有名な大学病院の医師」だから、という理由だけで

診療を受けるから、失望することも多いのです。

 しかし、これもニッポンでは実は無理な相談なのです。仮に病院が素晴らしい医師を雇おう

としても、医師がどのような技術をそれまで習練してきたか、調べようにもそうした制度が二

ッポンにはないのですから、仕方がありません。

 医師の技術の点では、ほかの文明国の医師のように、認定された研修医の制度がニッポンに

はまったくないと言っていいでしょう。立派な一般内科医のみならず、立派な専門医になるの

には、アメリカやイギリスの医学界のように、系統的な研修医養成制度が不可欠なのです。ところが、ニッポンでは、厚生省も日本医師会も医学部卒業後の研修医制度を作らないから、各医師の職歴、臨床経験能力が不明であることは、ニッポン人である私にとっても本当に嘆かわしいかぎりなのです。

 

 ニッポンの医師たちが「学歴」だけで勝負していて、患者さんにとっていちばん大切な「職歴」がなぜないか、一般内科医のこんな例で説明しましょう。

 

 現在のニッポンの内科医は、医科大学あるいは大学医学部を卒業すると、ただちに「医局」というところに入ります。ですから、もし、その医局が同じ内科でも消化器専門であったなら他の臓器の疾患について、ほとんど高度な専門的な教育を受けていないと言っていいでしよう。

 

 こういう医師は、病院の救急室で宿直の夜、心不全の患者さんが瀕死の状態で救急車で運ばれてきても、「私は消化器専門医だから、心臓疾患の治療はしない」と言って、診療を拒否するかもしれません。実際、よく救急の患者さんが病院をたらいまわしにされるのは、こういうことが原因なのです。

 

 これは、本で読んだことですが、ある時、有名大学の喘息専門の教授の診察を受けに、喘息の発作で苦しむ子供が来院しました。すると教授は、その患者さんの親にこう言ったそうです。

 

 「私は大人の喘息の専門ですから、子供の喘息は診ません」と。

 

 有名大学の教授だから、信頼できると思ったのに……と患者さんの親は喘息で苦しむ子供の前で、どうしていいかわからなかったそうです。

 

 医師法では、医師は外来に訪れた患者さんを診ることが義務づけられていますが、あまりにも専門が細かく分かれすぎているために、専門外だと診療を断る医師も増えてきます。

 

 同じ喘息でも大人の喘息専門、子供の喘息専門という部分まで専門化してしまっていいのでしようか。

 

 厚生省、医科大学、大学医学部も専門医を育てる前に、まず能力ある一般医を育てあげる

カリキュラムを作る、べきですし、それに沿った研修医制度を確立すべきなのです。このことにまったく無関心なのには、私は驚きよりも大きな怒りを感じます。

 

 また、アメリカの話を書くと、顰蹙を買ってしまいそうですが、アメリカでは一般外科医

として認定されるまでには、五年の問、いろいろな手術を習得しなければなりません。

 

 その手術は、たとえば、虫垂炎胃潰瘍、硬膜下血腫、胆石、腎結石、大腸炎、子宮ガンなどですが、こうした、よく起こる多くの外科疾患の手術ができる外科医になってはじめて、一般外科医として認定されるのです。もちろん、心臓疾患、脳外科の手術は、さらに三年、四年の訓練を受けた外科医でなければなりません。

 

 『誤診列島』でも書きましたように、アメリカでの内科医は、最低三年間、消化器科、循環器科、呼吸器科、内分泌科、アレルギー科、関節科、神経内科、血液ガン科などのすべての領域を巡回して、内科全体の診療治療の能力を育む教育を受けなければなりません。

 

 このような医学教育制度(研修)により養成された医師は、患者さんの臓器だけの疾患を診察するだけでなく、体全体を診察します。いわゆる、患者さんの全体を診て、そこから診断を下すという医療の基本、さらには、内臓一般に関して、いつでも対応できる技術を有した一般医を、まず育て、そこから専門医が生まれてくるという制度が、アメリカにおいては確立しているのです。

 

 ちなみにアメリカでは、厳格な専門医認定試験が施行され、それに合格して認定された医師の名が各州の衛生局に登録されます。

 

 この衛生局や医師会のリストが、患者さんにとっては医師を選ぶ際に、大変役に立つので

す。たとえば「開業医データベース」を開けば、内科もしくは外科の技術的に認められた素晴らしい医師の名のみならず、どの外科医が手術ミスによる医療ミスを起こしたかという情報までも記載されていますから、技術面からみた「良医」を患者さんが自ら選び出すことも不可能ではありません。残念ながら、ニッポンではそんなデータベースはありません。

 

 

週刊誌の「名医ランキング」は、何を基準にして選んでいるのか

 

 アメリカの患者さんは、どの病院に行ったらいいか、はっきりとした評価が定まっていますから、恵まれていますよね。ニッポンでは、こういうことはできないのでしょうか。

 

 実は、約十五年前、ニッポンでもアメリカのJCAHOを模倣して、病院機能評価機構が厚生省、日本医師会の指導のもとに企画されましたが、なぜか良く設立が延期され、ようやく一九九七(平成九年)に日本医療機能評価機構(JCQHC)が発足したことはしたのです。

 

 しかし、過去三年間に、全国九千三百弱の病院のうち、この認定を受けたのは三百八十七

病院しかありません。これは全体の四・一パーセントです。ほとんどの病

院は、認定されてもされなくても病院の収益には影響がないので、その評価を受けないとい

うのです。

 

 そればかりか、JCQHCの審査評価査定が、アメリカのJCAHOおよびHCFA審査に比べて、あまりにもその基準が甘いことも間題でした。最近NHKで放送された清水市立病院がその良い例です。

 

 しかもこの機構が発足してから、これまで審査を受けたすべての病院が合格というから、驚きます。何のための審査なのでしょう。厚生省は、この機構に予算を出していながら、なぜ四・一パーセントの病院しか審査を申請しないかについて公表しないか理解できません。ひどいものですね。ニッポン人のこの曖昧さが、外国からみると許せないのでしょう。ここにも、誰も責任をとらない、「顔の見えない」ニッポンの体質が表れています。

 

 こんな状態のニッポンで、病院機能や医師の質の評価がなされていない以上、医療ミスを防止する体制などできるわけがありません。極言すれば、ニッポンの医療ミスの原点は、こうしたニッポンの医療機能評価の遅れにあると言っても過言ではないでしょう。

 

 アメリカのHCFAのように、ニッポンの病院の医療報酬を我々の税金から支払っている厚生省が、まったく病院の機能がどうであろうと、医師の質がどんなに低かろうと関係なく、単に診療報酬請求明細書(レセプト)だけを支払いの基準にして、病院にお金を支払っているとしたら、まさに税金の無駄遣い以外の何物でもありません。そうなれば、当然、架空、付け増し、振り替えなどの病院の不正請求が多いのは当然のことでしょう。

 

 最近、週刊誌や月刊誌に「肺ガンや慢性肝炎が治る有名病院」とか「名医ランキング」のような記事が掲載されていますが、病院の機能ならびに医師の質の評価に基づかない格付けでは、それらの信用度に問題があると言わざるをえません。

 

 なぜなら、アメリカでは二重の審査、抜き打ちによる審査が行われ、さらにはインターネットでその評価が公表されているのに比較して、ニッポンでは誰もまともに病院の機能を正しく評価していないのですから。

 

 実際、私を取材に訪れたある週刊誌の編集部員に「あのランキングは、どうやって選んでいるんですか」と聞いたら、はっきりした返事をもらえなかった覚えがあります。

 

 たいした根拠もなく、勝手にランキングをつける記事も問題ですが、それをまともに信じる読者にも、危険なものを感じます。手術の成功率院内感染発生率、医療ミス発生率、専門医の数、病院の医療機器の種類など、具体的に数字を挙げてこそ、信じられるデータになると思うのですが……。

 

 このような無批判な状態では、本来なら避けることができる医療ミスは頻発するでしょう。ですから、はっきり言って、ニッポンでは、患者さんが安心して治療を受けられる病院を選ぶことは大変に難しいと言えます。

『名医発見』中野次郎(元オクラホマ大学医学部教授)著より