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ニッポンとアメリカ、患者さんと医師の「立場」のちがい

 

 すでにご存じかと思いますが、ニッポンとアメリカでは、医師と患者さんの関係に大きなちがいがあります。

 

 たとえば、ニッポンの総合病院の外来では、「三時間待ち三分診療」と言われるくらい、相変わらず多数の患者さんが待合室に押し寄せ、診察の順番を待っています。多忙な患者さんにとっては、この「三時間待ち」は、たとえ、そういうものだとわかっていても、肉体的にも精神的にも耐えられない苦痛を味わっているにちがいありません。

 

 予約制度があるといっても「大変診察が混んでおりますので、九時の予約の方は、九時半から十時半の間に診察をいたしますので、もうしばらくお待ちください」などというアナウンスを間くと、「いったい、何時に診察をしてくれるのだ」という怒りさえ覚えてくるのも当然のことかもしれません。

 

 一方、アメリカはどうなのでしょうか。その答えは簡単です。アメリカでは、多くの患者さんが総合病院の外来で受診することはありません。

 

 大学病院、市民病院といった特殊機能病院では、開業医に紹介された少数の患者さんが予約して診察を受けるので外来の待合室が混んでいることはないのです。もちろん、入院中の患者さんの治療は先端技術を駆使して行われています。

 

 つまり、アメリカの総合病院は、入院患者さんを診療する目的のみで存在しているのです。

 

 なぜ、ニッポンでは「三時間待ち三分診療」なのかについては、『誤診列島』に詳述した

ので、ここでは省きますが、こうしたニッポンとアメリカの病院のちがいのなかで、私がもっとも差異を感じるのは、救急室です。

 

 ニッポンでは、いわゆる「救急センター」と呼ばれる施設以外の総合病院の救急室は、設備が不完全であることも多く、緊急治療が貧弱であると批判されています。救急室に救急専門医が終日常勤しているわけでもなく、救急のための設備が完備されているわけでもありません。

 

 ですから、高熱や腹痛、下痢などに悩む救急の患者さんが緊急に医師の診察を受けることもできないという例は、枚挙にいとまがありません。しかも、なかには、外来の患者さんと混同され、ときには四、五時問も診察の順番を待っていたという例もあるほどです。

 

 医師にとっても、この救急室の不備は負担が増えます。たとえば、ひとりの救急の患者さんの診察に長時間要すれば、一般の外来の患者さんをまた必要以上に長く待たせることになるからです。小児科医が少なくなった現在、いちばん恐怖を覚えるのは急病で苦しむ子を持つ母親です。厚生省は何一つこの間題に対する政策を持っていません。

 

 最近、浜辺祐一氏の『こちら救命センター』を読み、彼の活動に深く感銘しました。そし

て、東京都民のために「ハレルヤ」を叫びました。悲しいのは、ニッポンにはあのように素晴らしい救急室のある病院があまりにも少ないことです。換言すれば、アメリカのほとんどすべての病院には、ああした救急室に浜辺さんのような救急医がいるので著書のなかの多くのエピソードには驚きませんでしたが、彼のような活動こそ、今後のニッポンの医療に求められているものでしょう。

 

 アメリカでは、自動車事故、銃による外傷、麻薬などの患者さんが多いため、総合病院の救急室は大変によく完備されています。常勤の医師もいて、小さな総合病院でも、つねに三人の救急医が待機しているほどです。まして、大きな総合病院では、テレビドラマの「ER」に見られる野戦病院のような光景が、つねに展間されていると言っても過言ではないでしょう。若いころ、同じような経験をした私は、いつも「ER」を見ると激しいノスタルジアを覚えます。

 

 救急医療に携わる医師や看護婦さんたちも大変です。終日、激しいストレスのなかで忙しく働きますのでたとえ八時間交代の制度があっても、「燃え尽き症候群」に陥ることも不思議ではあ・りません。

 

 ニッポンとアメリカのちがいを見ていきますと、医師はどちらの国でも大変に忙しく働いているのに対し、アメリカの患者さんの方が、同じ病気にかかったニッポンの患者さんに比較して、医師から必要かつ十分な治療を受けているということがよくわかります。

 

 なぜ、アメリカの患者さんは、ニッポンの患者さんに比、べて、十分な治療を受けられるのでしょうか。

 

 それは、アメリカの医師が診る患者さんの数が圧倒的仁少ないからです。あえて言ってしまうと、ニッポンの患者さんが十分な治療を受けられないのは、ニッポンの医療制度に不満を持ちながら、国民皆保険制度かおることをいいことに、不必要な薬をもらおうと群がる多くの患者さんたちにも責任かおるということです。

 

 もちろん高価な薬を処方することによって、患者さんを薬漬けにしている病院側の経営にも間題はあります。しかし、私から言わせれば、ニッポンの人たちが満足な治療を受けられないのは、極端なことを言えば、患者さんの自業自得という部分もあるということを知っておいてほしいのです。さらにアメリカの医療費がニッポンの数倍であることも大きい要素だと思います。

 

 患者さんの数が多ければ当然、インフォームドーコンセントをする時問もありません。膨大な数の患者さんに接するため、当然、医師は交代しますから、総合病院の外来を訪れるたびにちがう医師に診てもらうことになり、医師と患者さんの信頼関係をつくることもできにくくなります。

『名医発見』中野次郎(元オクラホマ大学医学部教授)著より