コーディネートにおける患者側の問題点

 

 公的骨髄バンクの「コーディネートマニュアル」の資料編に、東海骨髄バンクにおいて行われたコーディネートの経験から、次のような注意事項があげられている。

 「MLCの検査の結果骨髄移植可能と判断されたにもかかわらず、最終段階にてコ七アイネートが中止となったケースが意外と多い!」

 この場合にはそれまでのコーディネートの努力と労力が無駄になるだけでなく、患者・ドナーにも悪影響を及ぼすため、どうしても避けなければなりません。

 どのような理由によるかをまとめると、

 〈ドナー側の理由〉が八件で、このうち家族の反対が六件、健康上の問題が二件、

 〈患者側の問題〉によるものが一一件で、このうち患者の状態が良好で骨髄移植の適応にならないためが九件、患者の状態の悪化が二件、患者の家族が骨髄移植に反対が一件。

 この間に移植が行われた件数が五五件であるからMLC検査の実に二七パーセントがドナーがいるにもかかわらずキャンセルしたことになります。

 しかも不可抗力と考えられるケースはほんの数件で、大部分はMLC検査前のドナー側、患者側、主治医の理解不足から来るものです。

 MLCを終え移植可能となった患者の実に二七パーセントがキャンセルしている事実にまず驚かされる。しかもその大半の原因は「患者の状態が良好で骨髄移植の適応とならない」というものである。また、コーディネートマニュアルには次のような記述も見られる。

 患者主治医が、「当面の骨髄移植は考えていないが、とりあえずドナーキープしたい」と希望する場合が結構多い。

  【対 策】

 主治医に提供者が見つかった場合の骨髄移植施行の意志を充分に確認し、上記のような理由で登録を希望する場合は、お断りする。

 こうした記述を要約すれば、「今のところ非血縁者間の移植は必要ないのだが、とりあえずは骨髄移植の可能なドナーがいるかどうかだけは申し込んで搜しておこう」というものである。こうしたケースは、マニュアルではコーディネートできないとしているわけである。当然といえば当然のことである。ドナーとすれば、大きな決断のもとに骨髄提供をなんの見返りも求めずに快諾して、登録しているのである。そのために何度も検査に足を運び、採血されている。それがすべてOKとなっているにもかかわらず、あげくの果てに患者から「ヤメタ」といわれるのでは、ドナーは何のためにここまでやってきたのかを考えると、あまりにもかわいそうである。それに、そんなことをやっているような余裕は現在の骨髄バンク事業にはない。そうした行為は、本当に骨髄移植を緊急に必要としている状態にある患者の足を引っ張ることにもなりかねない。

 われわれは本書を世に問う前提として、日本でも公的骨髄バンク事業が始まったことにより、血液疾患患者はもう一つの治療法としての選択肢が増えた、のであるから骨髄移植をより深く理解べきだという考え方からスターとしている。「選択肢は増えた」という意味は、決していつまでも非血縁者間の骨髄移植のカードを持ちつつ、必要がなくなれば、それを切り捨ててもよいということではない。「どうしても」という必要性もないのに「とりあえず」という立場で患者として登録するのは、ドナーの立場を無視しすぎてはいないだろうか。もちろん、患者は生命がか かっているのであるから、そうしたことも許されるのではないか、という意見をお持ちの方もおいでになるとは思う。しかし、ドナーもまったくないとは言えない事故の事実を見すえて、「命がけ」で提供しようと決心しているのである。

 骨髄バンク事業は、ドナーがあって初めて成り立つものであるという最初の立脚点を、ここでもう一度見つめてみる必要があるだろう。骨髄提供は、自分の健康の一部を他人の健康に役立てたいという、無償の愛の行為である。人と人のつながりが希薄になっていく現代社会にあって、骨髄バンクの投げかける意義は、同じ社会に生きる人間同士、お互いの思いやりを大切にしようという、人間尊重の考え方である。それは単に血液の難病に苦しむ患者を救済するためだけのものではない何かがあると言ったら、それは少しばかり大げさすぎるであろうか。