発達障害の早期発見、早期対応の一般的意義

 

 発達障害における早期発見、早期対応の課題は次の点にある。すなわち、発生、発達途上での個体と外界との相互作用の障害の存在を明らかにし、これを修復するか、これに替わりうる相互作用の過程を補償することによってその後の障害の発生と展開を予防し、機能システムの形成を保障することである。発達障害の場合、脳に障害を有することが多く、外観的に容易にわかる場合を除いて発達初期には見逃されることがある。この場合障害が顕在化し、固定化してしまった段階では対応に限界があり、期待される効果をあげにくい。そこで障害像が明確となる前にいかに予知し発見するかが課題となる。

 早期発見、早期対応の意義は次の2点にまとめることができる。第1は、乳児期から幼児期にかけての発達初期には神経系の可塑性が著しく、学習能力や発達能力も豊かで脳損傷を償う機能形成の可能性が大きいと考えられるので、生起した一次障害の軽減ないしはその代行機能の形成をはかることが十分に期待しうること。第二は機能形成に必要な情報の流れを保障することにより、その後の二次障害の発生を予防しうることである(高松、 1981年)。小児期における可塑性の大きさは、たとえば脳損傷によってひきおこされる後天性の小児失語は回復が早く、予後良好であることに示されている。その他四肢のいずれかに欠損がある場合でも小児では残された部位により、たくみに機能代償をはかっている例が多いこともよく知られた事実である。二次障害の予防にかんして重要な点は、発達や脳の機能形成には一定の順序性があり、さらには多くの場合敏感期(感受期)。が存在することが明らかにされてきたことである。その代表的な例は感覚遮断実験である。幼若時のある一時期に特定感覚機能を働かせる経験を奪われた場合、その後この機能を獲得することができなくなり、それは対応する脳細胞の萎縮や退行という組織解剖学的変化ともなって現われる(八木、 1984年)。脳機能形成の敏感期は多くの場合、発達期早期にあると考えられ、この時期に獲得されなかった機能システムはその後の習得が困難となるとともに、獲得されてしまった異常反応パターンは時期が遅れるほど矯正しがたいものとなる。すなわちこの時期をはずすと神経の機能システムは非可逆的となる場合が少なくない。

 障害の発生機制が明らかにされ、これにたいする早期対応によって障害を予防しうるようになった代表的なものとして、フェニールケトン尿症(PKU)など一部の先天性代謝異常症や甲状腺機能障害かおる。 PKUは酵素欠損によって中間代謝産物の高蓄積が生じ、知能障害をもたらすものであるが、これを防ぐために食事療法や薬物療法を行なう。また高ビリルビン血症に伴う核黄疸は、脳性麻痺の3大原因の一つとなっていたが、交換輸血や光線療法によって防ぐことができるようになった。これらは物質的相互作用(代謝過程)を補償することによって障害の発生を予防できる例である。先天性白内障の場合には、成育後に開眼手術を行なってもそのままでは視覚系を有効に活用することは困難となる。また生後一定期間内(ほば36ヵ月以前と考えられている)に視覚入力が遮断・制限されると弱視となる。これは視性刺激遮断弱視といわれる。以上の事実は生後早期に視機能形成の感受期が存在することを示している。した`かって、現在では生後1年をメドに開眼手術を行なうようになっている。聴覚障害についても、2~4歳といわれる言語獲得敏感期の前、可能なかぎり早く補聴器を装用し、聴能訓練を行なうことが重い言語障害を招かないためにも重要である。これらは情報的な相互作用を適時に保障するための早期対応である。

 このような早期対応として近年め、がましい成果をあげているものにボイタ法、ボバース法に代表される脳性麻痺にたいする発達神経学的治療がある。これらの方法では、脳性麻痺を脳損傷によって正常な感覚一運動情報の流れが阻害されたために姿勢、運動制御を適切に遂行する機能システムが形成されなくなった状態ととらえ、これにたいして外から組織的に刺激を加え、反応を誘発して感覚一運動情報の流れを強化、補償することによって上位の機能系の形成を促し、一次障害の軽減をはかるとともに二次障害を予防することを治療原則としている。この治療の効果をあげるうえでは生後4ヵ月、遅くとも6ヵ月以前に対応を開始することが重要である。