自閉症の療育と予後

 

 自閉症児の治療と教育

 治療にも教育にも、これという決定的に有効な方法はないのが現状である.療育の有無と関係なく、ほとんど一定したIQがつづくとか、IQレベルで予後が予測できる(ある程度にもせよ)というくらいに、働きかけにたいして抵抗のつよい障害である.

 しかし、この40年間の歴史をみれば、かつでの精神療法や精神分析療法は、自閉症心因説の後退とならんで姿を消し、遊戯療法はその主導的立場を行動療法にゆずった.親の会をはじめ、各レベルの自閉症協会が設立され、有効な療育の原理が研究され、その可能性のあるものについては、コミュニティーにおける実践で検証できるように努力が積みかさねられている.

 (1)医学的治療

 感染症には奇跡的効果を示した医学も、自閉症にたいしてはいまだに無力である.薬物療法も、病因が不明である以上、試みの域を脱しえない.たとえば、自閉症児は脳幹網様体の機能異常があり、低覚醒状態にあるという説がある.それならば覚醒レベルを高める薬が効くかと思えば、逆に過覚醒状態だという反論がある.自閉症児では血小板のセロトニンが遊出しやすく、血中セロトニンが増えているという一連の報告があり、これを治療するためにL-dopaを投与すると、血小板からのセロトニン遊出が抑えられるというが、それによって行動の正常化かおこるわけではない.ビタミンB6の大量投与(30mg/ kg)で自傷行為、常同行動、情動不安定などの減少がみられるが、投与を止めると改善効果が消え、症状の増悪がおこるという.

 現状では、対照群をきちんととった追試研究に耐えられるような適切な治療はないと言わざるをえない.

 (2)療   育

 在宅、通院(園)、入院(所)などのかたちがありうるが、いずれの場合にも親・教師・セラピスト・医師のチーム・ワークが必要である.とくに両親が「共同セラピスト」として療育に参加することの重要性が、関係者によって強く主張されている.早期発見、早期療育の原則は自閉症についても当てはまる.

 ウイングらの英国自閉症児協会は、 1965年に自閉症児の学校を設立した.自閉症児は知能レベルにも行動異常にも大きい個人差があり、画一的な療育計画やカリキュラムは役に立だない.その子どもに何かできるか、どの程度できるかを十分に知ったうえで障害の改善をできるだけ促すための個別的な学習プログラムが、教育的、情緒的、社会的ニードなどを考慮しながら組み立てられる.

 まず形、色、大きさ、長さ、音、感触、重さなどを正しく知覚できるように「感覚の教育」からはじめ、数・時間の概念、コミュニケーションの手段としてのことば、読み方、そして料理・家事をふくむ日常生活に必要な技術を身につけさせ、体育、工作、音楽、画と多彩な学習をすすめている.

 米国のノース・カロライナではショプラーらの努力で、全州的な規模のネットワークができている.州の各地区をカバーする五つのセンターと22の学級が編成されており、センターは一人ひとりの子どもと両親のカウンセリングと教育に使われる.各地区には4~6学級があり、センターの指揮をうける.各級では6~8人の子どもを教師と助手が担当する.センターでは両親を共同セラピストにしている点が最も大事なことである.家庭療育のカリキュラム(ホーム・プログラム)は子どもの発達状態、親の資産などを考えてセラピストと両親がいっしょになって作り、センターの毎週の検討会に提出される.同じことを学級でもおこなっているが、そのときはカリキュラム編成の重点を広げて、グループ指導をふくめるようにしている.センターと学級に両親を直接参加させることによって、子どもの学校と家での勉強の体験のあいたに橋渡しができる.両親の参画はまた、家庭環境にたいする子どもの適応にもプラスに作用する.センターのセラピストは、求めに応じて教師・両親の相談・指導にあたっている.

 診断基準にいちじるしい混乱がみられた時代の論文をよむときには、予後にかぎったことではないが、どのような対象についての判断であるかに気をつける必要がある.最近の十分信頼できる診断で自閉症とされた子どもたちの予後については、かなりはっきりと予測できるようになった.

 予後の判定のベースになるのは、①認知能力(とくにIQ)、②ことば、③学校での振舞である.IQにたいする批判は別として、単一の指標としては、自閉症児の予後の判定にとってIQが最も有効だとされている.

 これらの指標についで、自閉症児のあいだに極端なばらつきがあり、一方の極にはIQ 50未満、何度しても測定不能の子どもたちがおり、その大部分はコミュニケーション可能なことばを身につけることができず、思春期にてんかん発作の出現してくるケースが多い.施設に長期間人っているという結果になる.

 他方の極にいる正常な非言語性知能をもつ子どもたちの予後は、まったく違う.その大部分は教育で進歩し、話しことばを身につけ、発作の出現も少なく、約半数は就職して収入を得ることができたという追跡調査がある.

 ①、②、③に非言語性知能を加えて総合判断すると、その子どもが将来、どの程度の発達的進歩をするかが大まかに予知できる.

 しかし、これらの予測はあくまでも大まかなものであり、とくに中等度の遅滞を伴う者、正常な知能の自閉症児の予後の判定はなつかしく、予測よりずっと良いことと、ずっと悪いことがある.また、原因・本態の解明がすすむにつれて、新しい治療・教育が開発されてくる.現在の判断は、すべて過去40年間のデータにもとづいて得られたものであり、統計学的な予測である.自閉症の予後の判定が、今後大きく変わってくるのは当然のことである.