てんかん:原因と脳波、発作発現の機序

 てんかんは、てんかん発作を主たる症状とする。しかし、てんかんの症状は多様で、本態も複雑であるために、その概念はいろいろと変遷の経過をたどった。19世紀後半、英国のジャクソン( J。H。Jackson)は、大脳皮質灰白質におこった興奮が増強され、脳内に広がった結果、てんかん発作がおこることを見出した。その後、脳の研究が進み、てんかん発作時に大脳皮質ニューロンの同期的放電が実際に生じていることが確かめられ、ジャクソンの考え方が実証された。てんかん発作時には、単に大脳皮質だけではなく、視床視床下部など脳内のいろいろな部位でもニューロンの過度な放電は生じうる。そのような異常放電が生じる部位によって、てんかん発作の症状が違うことが現在ではわかっている。

 「てんかんは、種々の原因による慢性疾患で、大脳ニューロンの過剰放電に由来する反復性の発作を主徴として、種々の臨床および検査所見をともなう」(WHO、 1973年)という考え方が一般に受けいれられている。したがって、高熱や中毒等によって生じる一過性のけいれん症状などは、てんかんとは呼ばず、むしろそのとき進行している病気の一つの症状であると考えられている。けいれん症状をきたす原因はいろいろあるが、特に小児期には5~10%の小児かけいれん症状を経験している。ところが、てんかんを示す者は、総人口中の1%程度であるので、むしろてんかん以外でけいれん症状を示す者のほうが多いと言えよう。

 てんかんの原因と脳波

 発作発現の機序

 てんかん発作とその症状は、きわめて多種多様である。しかし、いずれのてんかん発作であれ、その原因のいかんを問わず、それが脳のニューロンの過剰な放電に由来している点が共通している。

 神経系は、元来、それ自身が興奮性をもつ組織である。神経系を構成する神経細胞(ニューロン)は、一定の脱分極に達するといわゆる「ニューロン放電」をおこす。脳は、膨大な数のニューロンの集合体であり、これらのニューロンは、さまざまなパターンで放電して、インパルスを送り出している。てんかん発作は、これらのニューロンが多数、しかも同期していっせいに放電することにより生じるものである。その結果、そのニューロンが支配するいろいろな身体諸部位に変化がおこる一方、脳内に生じた電位変化は、頭皮上にまで波及し、棘波などの突発波として記録される。したがって、てんかん発作現象の背景にあるニューロン放電の異常な過同期をひきおこすに至るプロセスが問題となる。

 脳におけるニューロンの過剰放電は、ニューロン膜の分極を保つのに必要な糖質、酵素などの欠乏とか、体液や血液の水素イオン濃度(pH)、体内電解質のバランスの偏位などによってもひきおこされると言われている。また、二ユーロン開をつなぐシナプスにある伝達物質の異常によるものもある。たとえば、てんかん発作のさいには、脳の興奮性をおさえるガンマアミノ酪酸GABA)の濃度が下がり、興奮性伝達物質であるアセチルコリンの過剰生産がみられる。したがって、ニューロンの仕組みの秩序が、上に述べたいずれかのレベルで不安定になったり、くずれたりすることによって、てんかん発作をきたすようなニューロンの過同期放電が生じるものと考えられる。例えば、頭部外傷などにより脳組織に損傷が生じると、
その部位の脳血管加減少して血液供給が不十分となり、瘢痕が残る。この瘢痕の周囲には、神経細胞の脱落、特に抑討陛ニューロンの脱落が生じ、非常に不安定で発射しやすい状態となり、その部位がてんかん性の焦点を形成するようになるものと考えられる。

 (2)てんかんと脳波

 脳波は、脳の電気活動を記録したものであり、脳の活動状態は脳波に一定程度反映される。てんかん発作は、脳のニューロンの過同期放電によってひきおこされるものであるから、脳波上でも背景脳波とは異なる特徴的な波形を示す。てんかん発作の徴候を示す波形は、通常何の前ぶれもなく突然出現し、電圧も高く、背景脳波とはかなり明瞭に区別されるので、突発波(paroxysm)と呼ばれており、さまざまな波形を示す。突発波は、大きく分けると棘波(spike wave)とか鋭くとがった鋭波(sharp wave)などの持続時間の短いものと、棘波と徐波(slow wave)がいろいろなパターンで組合わされた棘徐波複合(spike-wave complex)とに分けられる。てんかんの臨床診断においては、突発波出現の有無、波形の特徴、その分布、出現条件などが重要な手がかりとなる。

 棘波や鋭波は、ニューロンが過同期放電して頭皮上に波及したものであり、部分てんかん発作など、発作焦点が明瞭である場合には、その焦点部位とその周辺で記録されるので、発作焦点の推定の決め手となる。これにたいして、棘徐波複合を構成する徐波は、ニューロンの過剰放電が脳内を伝わることによっで抑制性のインパルスが皮質下に発生し、その結果、脳波上では徐波として記録される。全般発作時には、しばしば棘徐波複合が記録される。例えば、定型欠神発作では、3 HZ棘徐波複合が観察され、ミオクロニー発作では、多棘徐波の波形が特徴的に見られる。

 てんかん発作は、脳波検査中に発生することはむしろまれであり、実際の脳波検査は、発作がおこっていない発作問歇期におこなわれる。したがって、てんかん発作がおこっていない時期の脳波から、発作の種類や程度を類推することになる。発作間歇期にも突発波が出現することはあり、特に欠神発作の場合、80%以上間歇期脳波に棘徐波複合が認められる。実際の脳波検査では、できるだけ突発波を誘発するために、いろいろな賦活法が用いられる。主な賦活法としては、3分間程度腹式深呼吸をおこなわせる過呼吸賦活、眼前に強い閃光を点滅する閃光賦活、突発波が出やすい睡眠状態で脳波を記録する睡眠賦活、ペンチレンテトラゾールなどの突発波を誘発させる薬を静注する薬物賦活などである。これらの各種賦活時の脳波にもとづいて、脳波検査の評価がおこなわれる。