知的発達障害の生物学的要因:受精前(遺伝子、染色体の異常)

 

 ヒトの発生過程では、さまざまの障害をおこしうる要因がある。ここでは受精前、胎生期、周生期そして出生後のそれぞれの時期に分けて述べる。

受精前(遺伝子、染色体の異常)
                     a。遺伝子の異常一遺伝子の本体はDNAであり、染色体のなかに一定の順序に従ってたたみこまれている。遺伝子によってさまざまの情報が次代へ伝えられるのである。この遺伝子に欠陥があればヒトの発生過程においてその構造や機能の障害を生ずることになる。

 遺伝子の異常には、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖遺伝などの様式がある。

 常染色体優性遺伝様式による疾患の主なものは、軟骨形成不全症、マルファン症候群、裂手、裂足、結節性硬化症である*。

  *この様式の疾患では、知能障害をきたすような脳障害を示すものは少なく、その多くは身体各部の形の異常、組織構造の異常である。

 常染色体劣性遺伝様式による疾患は、主に酵素の欠損によるもので、先天性代謝異常症と言われており、それらは中枢神経系の障害をもたらすことが多い。たとえば、フェニールケトン尿症、かえでシロップ尿症、チロシン血症、ホモシスチン尿症、ヒスチジン血症、ムコ多糖類代謝異常、ニーマン・ピック病などである。

 X連鎖遺伝様式では、性染色体であるX染色体上にある変異遺伝子により生ずる疾患である。血友病、デュシエンヌ型進行性筋ジストロフィー魚鱗癬などがある。

 上記の遺伝様式のうちで、知的発達遅滞と最も関連があるのは常染色体劣性遺伝子病である先天性代謝異常である。それらの代謝異常症のいくつかのものは、新生児のスクリーニングテストで早期発見が可能となっており、障害の発症を予防することができる。

 b。染色体の異常一染色体の上には遺伝子がのっていて、精子あるいは卵子生殖細胞を通じて次代へと伝えられる。ところが、なんらかの要因により染色体に異常が生じ、余分な染色体が加わったり、逆に少なかったりすれば当然のことながらさまざまな異常を示すことになる。

 染色体異常では、常染色体異常の場合は知的発達遅滞は必発である。

 c。遺伝子・染色体異常をひきおこす要因一遺伝子や染色体など遺伝物質に異常がおこることを突然変異という。突然変異はある一定の割合で生じ、いわゆる自然淘汰という現象もあるが、現在われわれの生活環境のなかでは人為的な環境汚染物質がまん延しており、その結果として突然変異の発生が増加していることが問題となっている。

 遺伝子、染色体に異常をおこしうる代表的なものとして、放射線、化学物質、ウィルスをあげることができる。

 放射線は、遺伝子のDNA塩基の変化と、染色体にたいしては切断をおこすことがしられている。最近特に問題となっているのは化学物質である。われわれの生活環境にあるそのような化学物質を環境変異源とよんでいるが、現在判明しているものには、抗生物質食品添加物、殺虫剤、 LSD過酸化水素および有機過酸化物等々がある。このような有害な環境因子は生活環境から除去することが今後の課題となっている。