感覚受容器

 

 感覚の閾

 刺激の量的変化にたいする感覚可能な範囲には限界があって、最小・最低の限界となる刺激強度を通常、刺激閾(または絶対閾absolute threshold)という。最大強度の限界は、一般に生体を破壊するにいたるもので「刺激頂」とか「痛覚閾」といわれる。

 ウェーバーの法則にみるように、その量的変化が感覚されるには最小限の刺激強度の変化量が存在する。つまり、感覚の量的増減は段階的である。この区別できる刺激の最小の可変強度が「ちょうど可知差違である。ごくわずかずつ連続的に変化する刺激にたいしては階段状に変化する刺激よりも変化分の弁別が困難になるといえる。 このような、主観的・心理的事象としての感覚の量的性質にかんして、生理学的にはどのような対応機構があるのか、各種の感覚系についてしらべられている。一般的には、次にのべる感覚受容から感覚ニューロンへの感覚信号の変換の段階で、相当して、神経インパルス頻度の比例的増減が見出されている。

 生体内外の特殊な物理化学的エネルギーは、それぞれ対応する受容器によって、細胞の電気現象に変換される。電気的信号の工学的な変換器になぞらえて「トランスジューサ(変換器)」ともよばれるゆえんである。受容器には、特定の細胞がもっぱらその変換機能のために分化したものもあれば、感覚神経の末端に特殊な構造の被蓋ができて、その変形によって神経の電気的興奮をおこすもの、さらに、神経末端が直接に刺激をうけるものなど多様である。しかし、一般的には、作用刺激が受容器細胞や神経末端に、比較的ゆっくりした電位変化を生じ、局所電流が流れることによって、感覚神経の末端部の膜電位を変え、活動電位(神経インパルス)を発生させるという経過をとる。初めに生じるゆっくりした電気活動は、「受容器電位」(receptorpotential)とよばれ、神経活動電位を発生させる電位という意味では、より一般的に「発動器電位」(generator potential)ともいわれる。

 受容器電位や、発動器電位が大きく、長く続けば神経の膜電位の変化も大きく、長く続き、その結果、神経インパルスの発生頻度も大となり、長期間の放電がつづく。これが、刺激の量的変化にたいする信号変換の第一段階での過程である。しかし、一般に同じ強さの刺激が続いていても、受容器電位はやがて減少し。もとへもどる(受容器の種類によって長短がある)。したがって、神経の活動電位も刺激開始の当初は頻度が多いが、すぐに減少しはじめる。ある種の受容器では、刺激が終わったときだけ発生するものなどもあり、したがって、神経の活動電位をみると刺激の開始・停止、その強度変化などに応じて活動電位発生のタイプがいくつかにわかれる。このようなインパルスの発生様式にもみられるとおり、感覚は、物理的刺激そのものだけではなく、その変化(例えば物理的刺激が「無」になること)も、すでに末端の受容器段階で神経にたいしては「刺激」効果となってあらわれるのである。

 感覚伝導路と中枢処理

 受容器で電気的信号に変換された感覚の情報は、数万ないしは数百万もの感覚神経の束によって、中枢神経系内に送り込まれる。したがって、感覚の質的・量的情報は、ニューロンの1本いっぽんについてみると、神経インパルスという形式をとりながら、そのようなニューロンの多数の集合による、継時的および並列的なインパルス列の組合せという形式をとることによって、いわば必要な感覚情報の落ちこぼれがないように、効果的に伝送される。

 こうして送り込まれた感覚信号は、つぎに、感覚伝導路の途中にある中継核に達すると、そこでつぎの段階の情報処理を受ける。中継核での情報処理のうちでよく知られている仕組みが「側方抑制」(lateral inhibition)である。感覚信号を伝送してきたニューロンは、中継核のところで、いくつにも枝分かれして、新たにスタートするつぎの段階のニューロンにたして多くのシナプス結合をもつ。この仕組みによって、もっとも興奮性のたかい部分に相当するニューロンはさらに強い興奮を生じることになり、同時にそのすぐ近傍にあるニューロンは逆に抑制を受け、全体としては、興奮の焦点がするどく際立ってくることになる。こうして、もともとの受容器の段階での識別よりもいっそうシャープな興奮と抑制の対比が生じることとなる。こうした感覚の鋭敏化は、皮膚感覚、聴覚、視覚など多くの感覚系に共通にみとめられている。

 ところで中継核は、大脳皮質に向かってさらに何段階かにわたって高次になってゆく。そのレベルが上位になるにつれて、事情はもっと複雑となる。レベルが上位となるほど、そこでの情報処理はより高次化し、複雑となるのは当然であるが、感覚の鋭敏化という点では、中継核のあるレベルまではいっそう精密さをまし、分析的になるが、さらに上位に進んでゆくと、個々のニューロンの刺激にたいする選択性はかえって減少してくる。このようなレベルでは、すでに極限にまで分析的な前処理かおこなわれたつぎの段階として、かえって、感覚情報の総合化・統合化に向かうと考えられる。ほとんどの感覚系で、大脳皮質に到達する以前の中継核の段階で、こういう統合作用がおこなわれている。