筋肉の微細構造と分子機構:等張力性収縮と等尺性収縮

 (1)筋の微細構造

 骨格筋の起源は中胚葉である。中胚葉から体節が分化する。はじめに前筋芽細胞、つぎに筋芽細胞、さらに分裂をくりかえして筋管を形成し、最後に多数の核をもった1本の筋細胞=筋線維が仕上る。多核化しているのは細胞が融合

(合胞体)していることを示す。

 成熟した骨格筋は体重の40%以上を占め、神経と血管が付いており、筋線維の両端は腱組織へと移行して、骨、綱帯、皮膚などに付着、固定される。

 筋細胞(筋線維)をつくるおもな要素は筋原線維である。個々の筋原線維には、光の透過性がよく顕微鏡で明るく見える明帯(等方帯iso-tropic band。 I 帯)と、光が屈折して暗く見える暗帯(不等方帯anisotropicband、 A帯)との横縞があり、ここから横紋とよばれている。筋原線維の縦走方向に、このI帯、A帯を含んでZ膜という仕切りで区分される範囲が筋節(sarcomere)とよぱれて、収縮の形態上の単位となる。

 筋節の電子顕微鏡像によると、Z膜が基底となって、細い筋フィラメントが並列しており、その一端がZ膜に結合されている。これはアクチン(actin)といわれるタンパク分子からなっている。筋節の中央部には、もっと太い筋フィラメントがあって、アクチンーフィラメントのあいだに割り込んでいる。これはミオシン(myosin)といわれるタンパク分子からなる。アクチンだけの部分がI帯、アクチンとミオシンの重なり合う部分がA帯であり、筋節中央部でミオシンだけのところは、やや明るくみえてH帯といわれる。

 (2)筋収縮の分子機構

 筋収縮とはひとつの筋節内で、アクチンとミオシンの両フィラメントが、相互に入り込んでゆき、筋節自体の長さが短縮する結果と考えられる。これが滑走説(すべりこみ説sliding theory)である。収縮がおこるとI帯は短くなるが、両フィラメントが重なり合うA帯の部分は変わらない。つまり、ミオシン・フィラメントの滑り込みが深くなるだけである。この滑走の原動力となるのは、ミオシンとアクチンを化学的に結合する分子の作用であって、両者に架橋ができるからである。これを連結橋(cross-bridge)という。連結橋をつくるところは、ミオシン分子の側枝である。この側枝がボートのオールのように相手のアクチン・フィラメントをこぎよせて移動する。こうして結合の一周期が終わると、この結合が一たん解離して、次の新しい連結槁をつくるといわれる。側枝の部分は、ATP(アデノシン3燐酸)からリン酸基を分離させる酵素としてもはたらき、これによって得られる高エネルギーが連結橋を動かし、また熱を発生する。

 (3)等張力性収縮と等尺性収縮

 ある重さのものを持ち上げようとして肘を曲げるような場合の上腕の筋の収縮では、かかる負荷は一定であって、負荷となる重りの位置移動の働きをするものである。一般にこういう筋の収縮を等張力性収縮{isotonic contraction)という。それにたいして、いろいろな重さのものを、肘角度を一定にして持ちつづけるような場合の筋の収縮では、負荷の大小にかかわらず、筋長は一定である。こういう収縮状態を、一般に等尺性収縮(isometric contraction)という。

 等張性収縮のとき、どれほど速く収縮できるかは、筋にかかる負荷に左右され、両者間に直角双曲線関係がみられる。負荷がOのとき収縮速度は最大となる。等尺性収縮のとき、筋節の長さと筋が発生する張力との関係を求めると、最大張力を発生できる筋節の長さは、ちょうどミオシンとアクチンの両フィラメントとのあいだにできる連結橋の数がもっとも多くなるような長さのときである。そういう状態とは、通常の筋が、静止したまま体内にあるようなときの長さであって、・わずかに短縮した状態であり、これを生体長とよんでいる。

 実際に、筋の長さをいろいろと変えて、等尺性収縮として発生する張力をみると、全張力から、筋の受動的な弾性要素(静止張力)を差引いた活動張力は、筋が生体長にあるときにもっとも大きくなることが知られている。以上のことから、筋収縮を開始するときには、両フィラメントが最大限の連結橋をつくる位置、いいかえれば一般的に生体長にあるところで、もっとも効率のよい張力が得られるといえるだろう。

 (4)興奮収縮連関

 骨格筋は、収縮をはじめるに先だって、それに接合している運動ニューロンから、興奮性の刺激をうけとる。そうすると、筋線維をつつむ細胞膜(筋鞘)の内部の静止電位は急激に脱分極して、筋の活動電位を発生する。それが筋線維の全長にわたって伝導する。この活動電位は、およそ5 msec以内で経過する。

 ところで筋節のZ膜のところには、横行小管(T管)とよばれる膜の陥入部があり、なかまで入り込んでいる。いわば、外側の筋鞘と内部をつなぐ運河のようなものである。ほかに、筋小胞体(sarcoplasmic reticulum)とよばれる細胞内物質が、筋節両端のZ膜の相互をつなぐように、筋節のまわりを網目状にとり囲んでいる。この小胞体のZ膜寄りの末端がふくらみ(終末槽)、そこでT管と接している。こうしてZ膜部分とT管と終末槽とは、立体的な三連構造(triad)をなしている。

 上述のように筋の細胞膜に活動電位が生じると、 T管内部にもそれが伝播し、内部にある筋小胞体自体がもっている膜電位も変化させる。そこで終末槽に貯蔵されているCa“が小胞体から放出される。筋原線維のアクチンにはトロポニンというタンパク分子があり、それはCa゛゛とよく結合する。そのような状態に達すると、ミオシンとアクチンおよびATPの反応がおこる。Caはこのように筋収縮の調節作用をもっている。

 以上が、筋の活動電位発生という興奮の開始から、筋の収縮という力学的現象までの変換の過程であり、これを「興奮収縮連関(excitation-contractioncoupling)」と称している。