神経・筋の興奮と伝播

 

 高次の階層構造をなしている生命体では、多様な機能系統が分化していて、生命活動のいろいろなパートを分担しているが、それらがまた、個体としての統一を保ちつづける。ここに各系統の調整・統合の機構が、ひとつの機能系として確立される。

 異なる機能系のあいだの連絡と統合を果たすうえで、細胞における「興奮」の発生、その受け渡しとしての「伝達」、さらに「応答」は基本的な事象である。ここではもっとも代表的な神経細胞、感覚細胞、筋細胞などの活発に興奮活動を生じる形質をとりあげ、興奮の発生と伝播について述べる。

 1-1。細胞膜の興奮発生

 一般に生体が、なんらかの作用(刺激)をうけて状態変化をおこすことを興奮というが、その基本は、もともと個々の細胞レベルでの刺激に対する応答の仕組みである。以下では「興奮」を、このような細胞レベルでの応答という意味で話を進める。細胞によって興奮のしやすさがちがい、神経や筋はもっとも大きな興奮現象をあらわす。

 (1)膜電位①  静止電位

 細胞の興奮過程は、細胞内の電気的な状態変化となってあらわれる。細胞は細胞膜を境として、内部と外部とのあいたに電位差をもつ。膜をはさむので膜電位(membrane potential)ともいう。神経細胞では、興奮をしていないとき、内部が外部にたいして約一60mV~-90mV程度である。これをとくに静止電位(resting potential)とよぶ。細胞か死滅するとこの電位も消えるので、生命維持の「あかし」ともいえる。この静止電位が変化することが興奮現象である。

 膜電位の発生要因は、細胞膜を隔てた内外の体液を構成するイオンの濃度に差があることによる。神経や筋細胞では内部にK气外部にNa+、 C「などのイオンを多く含む。細胞膜は、ある種の物質しか通さない選択透過性(selective permeability)をもっている。大きい分子は通過しにくい。また電荷をもつ分子も通りにくくなる。それでもK゛やNa゛などのイオンは比較的出入りできる。ところが実際の細胞では、膜の内外のイオン濃度にはもっと大きい落差がある。つまり生きた膜には、イオンの自由な拡散をおこさないようにする仕組みがあるのである。Na゛やK゛などのイオンは膜の両側へと比較的よく流通できるが、膜一には、ほかに外側に漏出したK十を内部へ、また内部に流入したNa+を外部へと汲みとり・汲み出しをする作用がある。ちょうどポンプの作用にたとえられ、おもにNa゛を排出するのでナトリウム・ポンプ(Na pump)といっている。イオンの濃度勾配に逆行してイオンを運ぶという積極的作用であって、ATP(アデノシン3燐酸)の分解エネルギーを使う。こういう作用を能動輸送(active transport)とよぶ。腸壁からのブドウ糖の摂取にも、こういう能動輪送がみられる。物質の濃度に応じた移動は拡散による受動移送であるが、細胞の膜は能動輸送と受動輸送との両作用によって、膜の両側のイオンの配分をおこなっている。

 それでは、約一70mVというような膜電位を決めるのは何か。膜電位を発生する要素は、基本的に細胞膜を介して内外のK4-の濃度が不均衡であることである。細胞膜はK+にたいしては透過性があるので、濃度の大きい内部からたえず外側へK+が流出する。そうするとそれだけ膜外の陽電荷は余分にできる

  陰影の通路がNa-Kポンプによる能動輸送ことになり、それに見合って、膜の内側には、外に透過できない大きなタンパク・イオンによる陰電荷が対向することになる。このことは、膜というコンデンサを充電したと同じ状態をつくり出す。内部をー、外部を十とするこの充電電位は、こんどはK4“イオンの外向きの流束を抑えるようにはたらくこととなる。こうしてやがてK゛の流出がとまって平衡状態となる。このような充電電位が、K゛の平衡電位である。同じような平衡電位は他のイオンについても存在する。たとえばC匚の場合には、ちょうど符号がK4 ̄とは逆向きとなる。Na゛についてはどうか。このイオンはK4一よりも膜の出入りが不活発である。しかし受動的な出入りだけをみれば、やがては平衡電位に達することは同じである。