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実勢価格を無視した価格設定

 

 小池さんは、薬価改定が毎年実施され、Rゾーンが2000年までに3%まで縮小されること、新薬が発売されたり患者が増えたりして、薬剤の消費量が増える自然増が例年通り6%であることを前提に、2002年までの医薬品市場がどういった影響を受けるかを予測した。ただし、わからないのが、薬価差がなくなったとき実際にどの程度医師たちが薬を処方する量を減らすかである。つまり、今まで医師たちが、医療機関の経営のためにどれだけ不必要な薬を出してきたかだ。そこで、処方量が現在より10%減らされるときをケース①、処方量が15%減らされるときをケース②、処方量が20%減らされたときをケース③として、左の図のような3種類の見通しを示した。

 

 それぞれ98年から2000年までの医薬品市場全体の年平均成長率の予測を見ると、ケース①の場合はほとんど横ばい、ケース②では2%のマイナス成長、ケース③まで処方量が減らされると4%のマイナス成長で、薬価が下げ止まる2000年以降は患者数の増加と新薬を出すことによる売り上げ増が反映されて、毎年4・5%市場が成長すると見られる。

 

 では、マイナス成長になった場合、打撃を受けるのは誰なのか。

                      

 「繰り返しになりますが、これからもコンスタントに新薬の発売を予定している大手の製薬メーカーはほとんど影響を受けません。それどころか、大手メーカーの出した画期的新薬の中には、薬価基準制度によって国際価格より国内価格が抑えられているものもありますから、国際価格を反映するような値段がつけられるようになれば大手はドラスティックに伸びるでしょう。しわ寄せがくるのは中堅の製薬メーカーと後発品メーカー、そして医療機関に実際に薬を売る医薬品卸でしょう」

 

 小池さんはそう予測する。つまり、影響を受けるのは、品質がいまいちでも薬価差が大きいことで売れていた医薬品のメーカーというわけ。特に、品質や副作用などの情報提供量は先発品より劣るものの開発費を抑えている分安く売られていた「ゾロ品」を作る後発品メーカーは、確実に淘汰されていくだろう。ただし、欧米で薬剤費抑制の切り札として注目されるジェネリックのように質が確保され、先発品と比べてどうなのかきちんと説明されたうえで、患者が納得してジェネリックを飲むのなら話は別。先発品と同等またはそれ以上で、自己負担額も低くその人の身体にも合ったジェネリックが飲めるのなら、患者にとってもメリットが大きいはずだ。そのためには、アメリカの食品医薬品局(FDA)が80年から出している薬のガイドブック『オレンジブック』のようなかたちで、ジェネリックが先発品と同等であるのかどうかを判定してランクづけまでした、信頼のある情報が提供されることがまず必要なのは言うまでもない。

 

 一方で、薬剤費削減政策の影響をもろに受けている医薬品卸の合併は、これからも続くと見られている。現在、医薬品卸は日本卸連会員だけでも260社前後あるが、そのうち全国に販売網をもつ大手の広域卸4社と地域卸数社しか残らないのではないかと、きびしい見通しを示す人もいるほどだ。アメリカでは、70年代初めから80年代半ばまでの問に、医薬品卸同士の合併や吸収が進み、大手10社が全米の医薬品の流通の7割以上を握るようになった。日本でもこの10年間に『-50社以上、卸企業の数が減っており、ゆくゆくはアメリカに似た再編が進むのではないかといわれている。

 

 なにしろ、「今まで卸は薬価差依存経営でした。信じられないでしょうが、かなり薬価差があったころには、国で決められた薬価100円の薬を80円で仕入れて50円で売っても、卸はメーカーからのリベートでもうかったんです」と、ある大手医薬品卸の幹部が告白するくらい、卸は薬価基準制度によって生じた薬価差に守られて薬価差依存、メーカー依存型の経営を続けてきた。

 

 62年に国民皆保険制度がスタートして以来、薬価差のうま昧を医療機関と共に十分に吸い取って急速に増え続けた医薬品卸は、ついに淘汰される冬の時代を迎えた。それと同時に、単なる薬の運び屋に近かった卸企業の営業マンは、92年からMS(マーケティングースペシヤリスト)と呼ばれるようになり、彼らが医療機関の経営サポート、医薬品関連の情報など幅広い役割を果たさなければ企業自体が生き残れないような状態になりつつある。

 

 結局、臨床試験の国境の壁撤廃と新薬価制度が導入されても、画期的新薬を生み出し続けられる大手の製薬メーカーと、医療機関の必要な情報を提供する医薬品卸は生き残るのだ。強いものはより強くなり弱いものは消えていく、医薬品業界はそんな弱肉強食の時代に突入しつつあるのだ。しかし、本当の弱者である患者に不利益になるような改革だけはまちかってもしてほしくない。

 

『知らなかった医薬品業界』より