年間1兆円の薬価差益をゼロにする試み

 

 与党医療保険制度改革協議会が、97年8月に医療保険改革案「21世紀の国民医療-良質な医療と皆保険制度確保への指針」の中で、薬価差を生み出し医療機関と製薬会社がいっしょにもうかるしくみを温存してきた薬価基準制度を、2000年にはなくす案を発表した。

 

 新しい制度として提案されたのは、ドイツの参照価格制度を参考にした「償還基準額制度」。個々の医薬品ごとに薬価を決めている薬価基準制度に対し、専門家の委員会が同じような薬効をもつ薬をグループ化して、グループごとに償還基準額を設定するものだ。現行の薬価基準制度の下では、実際に医療機関が卸から買った値段と薬価基準との間に「薬価差」ができて、医療機関がもうかるしくみになっている。それが医療費を膨張させていると批判されてきた。新制度では、卸との取引価格から患者の一部負担分を引いた金額が、健康保険組合から医療機関に支払われることになる。しかも、償還基準額より高い薬を使う場合には、超過した分は患者負担になるのだ。

 

 また、慢性疾患の治療費を、現在老人医療の一部に適用させているように医師の診察、栄養士などの指導、検査、薬代などを一括してみる定額制にして、さらに薬剤費を抑えようとする案も出ている。国はとにかく医療費の3割以上を占める薬剤費をなんとか減らそうとしている。 そうなれば、業界としてはたまらない。製薬協の常務理事・尾藤猛さんは、そういった制度改革案を次のように批判する。

 

 「製薬協としては、与党医療保険制度改革協議会の案に反対です。償還基準額制度の下では、今以上に薬価が下がる可能性があると思います。また、基準価格を超える薬がいくらいいものでも、医師は、患者が自己負担をしてでもその薬を使う必要があることを患者に説明するのが大変なので、基準価格以下の薬しか処方しないのではないでしょうか。薬の情報提供もほとんどしないメーカーの、安かろう悪かろうという薬ばかりを医師が処方するのでは、患者さんのためにもなりません。

 

 基準価格以下の薬しか医師が処方しないようになった場合、新薬を開発する先発品メーカーが基準価格より高い値段で頑張るのが困難で、研究開発費や情報提供費をカバーできない可能性があるのです。まだ治療薬のない分野や、さらに有効な薬が必要な分野もあるのに、研究開発費に見合うような薬価が設定されないのなら、今後の医療の質の向上が阻害されていく恐れがあります。

 

 定額制導入の問題にしても、薬づけを減らして薬の適正使用をすることは必要ですが、必要な薬まで減らしては治療に逆効果でしょう。薬剤費を減らして医療費を下げようとしても、薬を減らしたために入院期間などがのびて、医療費も増えるのでは仕方ありませんよね。」

 

 尾藤さんは、新制度は、新薬を生み出し続ける先発品メーカーにとって非常に不利だとみているのだ。

 

『知らなかった医薬品業界』より