ICHは薬害をなくす特効薬となりうるのか

 

 ICH‐GCPの導入で薬害をなくせるかということについては、疑問視する声がある。東京の医師でTIP代表の別府宏圀さんは、その問題点を次のように指摘する。

 

 だいたい、ICHはあくまで日・米・欧の政府と企業のハーモナイゼーションであって、患者のことを第一に考えたハーモナイゼーションではありません。それに、東欧や日本以外のアジア諸国など、ICHに入っていない国々の製薬技術の発展を排除する動きでもあるような気がします。

 

 日本でGCPが導入されたときにも、これで二度と薬害や贈収賄事件などが起こらないのではないかと期待されたのですが、その後もいろいろな事件が起こりました。今度も、臨床試験のあり方がきびしくなっていい効果をもたらすのではないかという期待はありますが、新しいICH-GCPのガイドラインを読むと、これで臨床試験の透明性を保障したものになっているかは疑問です。

 

 臨床試験をするときのメーカーの責任を明確にした点では、評価できます。しかし、メーカーの監査や厚生省の査察がそんなにできるかといえばそうではない。それも抜き打ちの監査や査察ならいいですけど、今までのやり方だとかなり前から来ることがわかっているから、製薬会社は十分防御できるんです。臨床試験を担当する医師のほうも、実務をするのは部下なわけだから、下にいけばいくほど新しい体制が徹底されず、検査を忘れたり穴だらけになりがちなのです。その辺がきちんとチェックされるのか、新規の体制になっても、はなはだ疑問です。

 

 さらに問題なのが、臨床試験を受け持つ医療機関の中にある治験審査委員会です。これまでは、それが身内の委員だけで構成されていたために、治験そのものが本当にやる価値があるものなのかどうか、治験が科学的に行なわれているかどうかと、きびしく評価する役目を果たしてきませんでした。これからは、治験をする施設外の委員を一人含まなければならないことになっています。

 

 ただ、現実的に考えて、薬についてくわしく、専門的な臨床試験について客観的に見る能力を持っている弁護士とか消費者は限られていて、個々の医療機関のIRBに加わっていくことは難しい制度が変わっても、個々の医療機関でのIRBは医師中心にならざるをえず、チェック機能には限界があるのではないでしょうか。だから、県単位でもいいから客観的な目で見られる第三者の入ったIRBのようなものを作ることです。制度が変わっても、科学的で透明性の高い治験体制はなかなか実現しないでしょう。本当にその治験が必要なのかどうか、治験開始前に評価が必要です。

 

 医師の立場から言わせてもらうと、そもそも、治験を受ける医療機関は大学病院や県立病院などが中心ですが、そういった医療機関が受ける治験の数が多すぎます。医薬品メーカー全体の治験の数そのものを減らして、施設が受け持つ件数を減らさないと患者さんのためにもなりません。それで、新薬として申請される物質の数も減れば、審査する臨床試験のデータが多すぎてきちんと見れないと言い訳する中央薬事審議会の委員もきちんと論文を読んで客観的に評価することも可能になるのではないでしょうか。

                      

 さらに、前出の医師、浜六郎さんは中央薬事審議会の解体を提言している。

 

 「政府機関外で、製薬会社から人的・資金的に独立した第三者機関『医薬品監視機構』をつくるべきです。厚生省に入るのと同じような情報をそういった第三者機関に入れ、医薬品の承認審査、再評価、承認後の承認取り消し、回収を行なっていかなければ、いつまでたっても、たくさんの危険な薬が認可され、売られ続けてしまう」

 

 厚生省のヒモ付きで製薬会社と密接な関係のある今の中央薬事審議会では、適切な判断はできないというわけだ。中央薬事審議会と製薬会社の長年の癒着は、大蔵省と銀行の癒着と同じようなもの。それが、国民のカネのみならず、薬害という形で大切な命も奪ってきた。第三者機関による臨床試験の監視と公正な審査という二重のチェック体制の強化がさらに求められている。

 

『知らなかった医薬品業界』より