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医師からの報告を無視する厚労省

 

 副作用報告制度には、希望もある。97年7月からは、医療機関用の報告が従来より簡単な形式になり、医師だけではなく薬剤師からも報告できるようになったことだ。同時に、副作用報告の対象をすべての医療機関にしたために、報告は着実に増えていると厚生省医薬安全局安全対策課は言う。これからは、薬のプロ、薬剤師の積極的な報告に期待したい。

 

 もちろん、次のように訴える副作用報告に熱心な医師もいる。しかし、そんなまっとうな医師の気力をそぐのがまたお役人たちなのだ。

 

 「非常に重要な副作用を厚生省に報告したのに、その後、情報としてまったく生かされなかったことがありました。海外の論文に同じような事例が論文発表されているような重大なヶIスだったのに、厚生省は無視したのです。そういうことがあると、厚生省に報告しても意味がないのではないかという気にさせられる」ぶ厚生省資料による

 

 報告したはずの副作用が、臨床にあたる医師から見て重要なものだったにもかかわらず、情報としてまったく生かされなかったというのだ。

 

 対する安全対策課の山本弘史課長補佐の答えは、こうだ。

 

 「副作用というのは1例だけではなかなか判断できません。それは偶然なったのかもしれないし、元の病気が悪化したのかもしれないので、因果関係は否定できないという程度でとどめておきます。それが3例、4例集まることによって、どうもこれは薬と因果関係があるから対策を練ったほうがいいのではないかということになります」

 

 しかし、医療機関からの報告が少ない現状では、一例しかない報告でもかなり重要なものである可能性がある。しかも、海外で論文報告がなされているような事例に対しては、日本でも注意をはらって当然ではなかろうか。いずれにしても、厚生省の認識と現場の医師や薬剤師が必要としている情報には、大きなズレがあるといえそうだ。

 

 では、いったい、厚生省の安全対策課に集まってきた副作用報告は、どこへいってしまうのか。

 

 「安全対策課に入ってきた情報については、それをどう評価するか、5週間にI回、年合計10回開かれる中央薬事審議会の副作用調査会で決めます。個別の症例について、元の病気が原因なのか薬の副作用なのか、同じような症例が集まってきているから警告をつけるべきだとか、あるいは販売を中止すべきだとかいうことを決めるのです。その会のメンバーは、大学病院の教授や大病院の薬剤部長などの専門家。一応、こちらがある程度、集まってきた副作用報告をどう評価すべきか案を作っていって、調査会のメンバーの方々に結論を提示していただくというかたちをとっています。

 

 また、報告されたすべての副作用報告については、コンピユータのデータベースに1例1例登録してあります。1例1例の評価というのも重要なのですが、それを蓄積していって症例が集まったら見直すという必要があるものですから、データベース化して管理しているのです。今使っているシステムは平成6(1994)年からのもので、‘それ以前にも同じようなシステムはあったのですが、コンピュータ技術の向上にしたがって平成6年に大幅に改良を加えました」

 

 とは、山本課長補佐(厚生省安全対策課)。

 

 しかし、たとえば96年には、企業からと医療関係者からで合計1万8745例の副作用症例が報告された。それを年10回、単純に計算してI回に1874・5例について、3時間から4時間程度という副作用調査会の中で、どこまで細かく検討できたのかはなはだ疑問である。そこで、97年‥1111月の中央薬事審議会は組織再編成に伴って、今まで1つだった副作用調査会を副作用第一調査会、副作用第二調査会、副作用第三調査会の3つにした。第一と第二調査会は年10回、第三調査会は年6回程度開催され、厚生省安全対策課に報告された副作用について検討する。調査会が増えたことで、副作用被害に迅速に対応するようになってもらいたいものだ。

 

 ただ、そこでどういうことが検討されたかは残念ながら公開されていない。また、厚生省が長年、医療機関や製薬会社から上がってきた副作用報告を蓄積してきたというデータベースを見ることも現時点では不可能である。これだけ世の中がコンピュータ化して、医師の半数以上がインターネットを診療に役立てているというご時世に信じられない話だが、厚生省の副作用情報(安全性情報)のデータベースにアクセスして医師が薬を処方するときの参考にしたり、薬剤師がふたつの薬をいっしょに飲んでも副作用が出ていないか確認したりする、そんなことがいまだにできていない国なのだ、ニッポンは。

 

 だから、前述の「イリノテカン問題」のようなことが起こったのだ。イリノテカンの副作用報告への問い合わせのときがそうであったように、診察に役立てるような細かい情報はメーカーに聞けということで今まですませてきたのだろうが、メーカーがそこまで信用できるのなら厚生省はいらないのではないか。

 

 メーカーの安全性情報担当者でさえこう言っている。

 

 「副作用情報をどこまで表に出すべきかという問題については、メーカーによって温度差があります。それに、情報をできるだけオープンにしようと考えているところでも、どうしても企業としての利益を守りたいという意識が働いている中で提供する情報にならざるをえないんです。わたしが言うのもなんですが、厚生省はメーカーを信用しすぎていると思います」

                      

 数々の薬害を記憶している医療関係者や一般市民は、もっと中立的な情報がほしいのだ。

 

 前出の山本課長補佐(厚生省安全対策課)は、この件について次のように説明する。

 

 「副作用症例の開示には、非常に高度なプライバシーの問題がつきまとうので難しい面があります個別の患者さんの情報とか、個別の医師の状況とかいうものが不必要に公開されてしまうと情報公開のもとの趣旨に反すると言いますか、こんなに公開されるのなら副作用報告はしたくないという逆の現象になってしまう可能性がありますから。

 

 プライバシーに配慮したうえで、必要な情報について協議できる体制をつくるためにどうしたらいいかというのが、現在のわたしどもの検討課題です。ただ、将来はなんらかのかたちで医療関係者、さらには一般の方々にも副作用症例のデータベースにアクセスできるようにしなければいけないと考えておりまして、1999年にはそういうシステムを作ろうということで、ちょうど97年からその設計作業に入ったところです。今は厚生省がコンピュータ会社に発注してやっているのですが、将来的には医薬品機構(医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構)が情報の提供をすればいいのではないかということで、検討しています」

 

 実は、副作用情報の開示という点で、日本は国際社会から取り残されている。その気になれば、コンピュータでアメリカのFDAやスウェーデンにあるWHO(世界保健機関)の国際医薬品モニタリングセンターからの情報など、日本でも海外でも売られている薬の副作用症例がオンラインで取り出せるのに、なぜか肝心の国内の情報はベールに包まれているというのが現状だ。

 

 国内で集められた副作用報告を日本もWHOに報告することになっているのだが、それもお粗末なもの。96年度で1万8745件あった副作用報告も、医療機関から報告された1914件しかWHOには報告されておらず、なんと約9割は報告されぬままだというのだ。その理由は、その1914件が残りの9割の報告より重要だったからというのなら話はわかる。しかし、理由は別のところにあった。

 

 「単純にコンピュータの磁気的なフォーマットの問題です。過去においては、残念ながら全部を出す情報提供能力がなかったものですから……。ちょうどシステムの全面的な見直しをしているところですので、今後はより国際的な情報交換というものにたえられるものになっていくのではないかと思います」(厚生省安全対策課)

 

 「ないかと思います」じゃないだろう。と思わず突っ込みたくなるが、これが厚生省の実情である。ちなみに、WHOの国際医薬品モニタリングセンターは、60年代に世界中で起こった薬害「サリドマイド事件」をきっかけに設立された。一時財政難に陥ったものの、スウェーデン政府が財政的にバックアップすることで成り立っている。

 

 なぜ、スウェーデン政府が大切な国民の血税を使ってそこまでするのかといえば、当時人口800万人だったスウェーデンでは、100人以上がサリドマイドの被害を受けたため。二度と同じような薬害を起こさないように、政府が真剣に薬害対策に乗り出した結果だった。サリドマイド事件以降、何度も恐ろしい薬害が国内で起こっても、国民を薬害から守ることよりはメーカーと仲よくすることに熱心な、どこかの厚生省とは大違いと思うのはわたしだけではあるまい。

 

『知らなかった医薬品業界』造事務所著より