医療英語の翻訳会社BEST3

医学論文・治験文書・症例報告書・医療機器マニュアルなどの英語翻訳サービス

臨床試験で医者への贈賄、データのねつ造は慣習だったり‥

 

 

フェーズ2.この段階でいよいよ患者に新薬が試される。

 

ここでポシャってしまっては莫大な時間と金が水のアワ。企業論理の前に人としての倫理は無視されがち。

 

薬の開発という「科学」は時に暴走を始める。誰にも止められないのか。

 

 

 フェーズ1をくぐり抜けた試験物質は、同意を得た少数の患者で使用量、使用法、安全性や効果を調べるフェーズ2、同意を得た多数の患者で有効性を調べるフェーズ3という患者への臨床試験へと進んでいく。残念なことに、この臨床試験がしばしば、贈収賄事件やデータのねつ造事件など数々の事件の舞台となってきた。

 

 臨床試験をめぐる最近の事件を拾ってみよう。皇后美智子さまも患ったことで有名になった皮膚病、帯状疱疹の治療薬として、93年9月、日本商事が「ソリブジン」という新薬を売り出した。従来の薬より1000倍も安全性が高く、副作用が少ないというのがセールスポイントだった。ところが、発売からわずか1ヵ月で15人もの死者を出す死の薬となってしまったのだ。

 

 さらに、副作用死が報道される前に日本商事の重役が大量に自社株を売り抜けたインサイダー取引までしていたことが発覚した。この事件を「ソリブジン事件」として記憶している人も多いことだろう。この15人の死者は、いずれもガンの患者だったが末期症状だったわけではなく、ソリブジンとフルオロウラシル系抗ガン剤の併用による副作用が原因の死だった。専門家の話では、フルオロウラシル系抗ガン剤を飲んでいる患者にソリブジンを飲ませると、抗ガン剤の血液中の濃度が高まり、抗ガン剤を10倍も飲んでいる状態になってしまうのだという。

 

 ところで、これだけの副作用があるということが、臨床試験でわからなかったのだろうか。臨床試験の段階でソリブジンがフルオロウラシル系抗ガン剤と混ざると劇的な副作用を起こすということがわかっていれば、たとえ、この薬の発売が認められたとしても、フルオロウラシル系抗ガッ剤の併用は避けられ、これだけ多くの犠牲者が出ることにはならなかったはずである。

 

 それなのになぜこんな事態になったのか。ご存じの方も多いように、臨床試験のデータ隠しが行なわれていたのだ。臨床試験で244人中3人の死者が出たのに、死者は1人しか出ていないことにし、その一例もソリブジンの副作用による死ではないと届け出ていたのだ。ソリブジンが発売された後、最初の死亡事故が起こった直後に、日本商事で幹部会議が開かれた。そこで開発担当者が、臨床試験での死亡事故のうち2例は、ソリブジンと抗ガン剤の相互作用の可能性が高いと指摘した。にもかかわらず、厚生省に届け出をしていない、臨床試験中の死者2人のことなどを口外しない箝口令が敷かれたという。しかも、日本商事は動物試験を2種類実施していて、そのうち全症例が死んでしまい、あきらかに毒性が高いことが判明した試験のデータを隠していた。臨床試験を行なった各医師にはもちろん、臨床試験の結果をとりまとめる治験総括医にさえ報告していなかった。死亡例の出ていないほうの結果のみ、治験総括医に渡していたのだ。

 

 動物実験のデータ隠しがなければ臨床試験での死亡例も防げただろうし、せめて臨床試験でのデータ隠しが行なわれなければ、市販後の死者も出さずにすんだのである。データ隠しをしたメーカーと、抗ガン剤との相互作用による副作用を判断できなかった医師の罪は重い。それから1年後の94年、今度は国立香川医科大学の助手と国製薬会社「日本グラクソ」から、血圧降下剤「ラシジピン」の臨床試験に便宜を図った謝礼として、「原稿料」という名目で現金百数十万円を受け取っていた容疑で逮捕された。

 

 香川医大のケースでは、臨床試験を行なうときに不可欠なインフォームドーコンセント(患者への十分な説明と同意)も得ないで臨床試験中の薬を飲ませていたうえに、治験のデータを改ざんし、都合の悪いケースは報告を見送っていた。しかもその助手は、香川医大の患者だけではメーカーと約束した数に達しなかったために、アルバイト先の病院患者のデータを流用し数合わせをしていたという。習志野病院のほうもやはり患者の同意を得ていないし、複数の患者に副作用とみられる症状があったにもかかわらず、メーカーに出した調査表に記入していなかったのだ。

 

 この事件をきっかけに、日本グラクソが香川医大に対し、臨床試験のために支払われる正規の委託研究費100万円のほかに、「奨学寄付金」の名目で200万円を出していたことも判明した。当時、奨学寄付金はメーカーと大学の間で慣例化していたとみられ、香川医大では、さまざまなメーカーから年間約『-50件の臨床試験を引き受け、『-億円以上の奨学寄付金を得ていたのだ。

 

 ソリブジン事件などを受けて、日本製薬工業協会(製薬協)は、94年5月、「臨床試験の取り扱いに関する綱領」を作り、文部省や厚生省の通知をもとに、「委託研究費は担当医師個人には支払わず、すべて医療機関に納入すること」を強調していた。香川医大や習志野病院のケースは、実際には、その綱領が出される以前に現金の授受がなされていたのだが、臨床試験の業界内の規制をより強めるきっかけになった。

 

 しかし、事件は発覚し続ける……。

 

『知らなかった医薬品業界』より