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医師はほんとうにもうかっているのか?

 

 病院の規模や内部でのポストなどにより待遇に差はあるが、医師のギャラというのは基本的に「保険点数による支払いが病院へと振り込まれ、そこから給与として支払われる」という形態であり、したがって世界有数の名医が治療しようが経験の浅い新人医が治療しようが、病院が受け取る額はまったく変わらない。経営者側からすれば有名医師の存在など患者を集めるための客寄せパンダ的なものでしかないかもしれず、ところによっては安い基本給(高い役職に就いていないため人件費が安い)で動かせるヘーベーを多く雇ったほうがおいしいと考える病院だってあるだろう。

 

 こうした現状があるからなのか、新人の若手医師はやたらとキツイ職場に回されることが多い。どんなに優秀な人材であっても若いうちは大御所医師の使いっ走りとしてこき使われたり、体力があるからという理由で連日夜勤・飛び込み患者多数・生死にかかわる重体ぽかりみさせられるという緊急病棟へ回されたりと、これが当たり前になっているようだ。確かに、ただでさえ過酷な大病院勤務の中でもとりわけハードな緊急治療の領域に就かせるなら、体力にすぐれ無理な労働にも耐えられる若手のほうがよいに決まっているのだが、仕事のツラさから考えて不当に安いといわざるをえないギャラでこき使われる彼らの苦労を思うと、車にひかれて内臓ハミ出していても「なんだか手をわずらわせるのが申し訳ないなあ」と萎縮してしまいそうである。

 

 よく聞かれる声として、救急医療は「医療の中でも人命を救うという実感がもっとも強く得られる分野だから、やりがいがある」だとか、「極限状態での医療をこなすことで確実に成長できるから」だとか、なるほどと思わせる意見を述べる医師も多い。だが、自身が背負った職務の意義と重要性について誇らしげに語った後、多くの医師が「これで収入がもうちよつと高ければね」と自嘲気味の笑いを浮かべていたりする。参考までに、医師になって数年あまり、年齢30代半ばというケースの場合、平均的な収入は時間外手当て込みで月80万円程度、年にならすとボーナス込みで1300万円前後といったところ。数年前新聞で報道された「医師の平均収入はサラリーマンの7倍」というのは開業医の経費などもすべておりこんだもの。給与部分は、単純計算で約3倍、時給換算して約2倍というのがせいぜいのところだろう。いつ飛び込んでくるかわからない急患に備えて常に神経を張り詰め、事あるごとに人の生死を負

わされる仕事内容を思うと、ことに救急医療担当医の収入はあまりにも安い。

 

 「スポーツ選手のように腕前重視のドラフト制やフリーエージェント制があればよいのに」と考える人もいるだろう。実際、医師の中にも「医学会がスポーツと同じシステムだったら、俺のメスさばきに何千万もの値がつくのに」とうそぶく者が多いそうだ。フリーエージェント制とは異なるが、アメリカでは手術費を外科医の裁量で決定できるようになっている。患者には、まず病院からのものと外科医からのもの、2枚の請求書が発行され、その請求書コピーを保険会社に送付して治療費のなん%かにあたる保険金の払い戻しを受けるというシステムだ。日本だと、患者は一部負担金を病院に払うだけで、保険金は健康保険組合が病院に払う。薬代がいくらで、手術費用がいくらでといった細目まではふつうわからない。これが年間9兆円ともいわれる医療費の不正請求を生んでいる温床でもある。アメリカの場合、不正は起こりにくいが、高い保険料と医療費に悩まされることになる。が、それゆえに、極端な話、金持ちからは高い金を取り、浮いたぶんで貧しい者の手術費をタダにするなんていう人情家医師もいるのだとか。自分の腕前に自分で値段をつける。ある意味、自由経済国における正しい医療システムの姿といえるかもしれない。

 

 うらやましい話ではあるが、日本ではこの先何年待ってもこんな状況は迎えられないだろう。なにしろ「ボス」の権限が恐ろしく強い。医学生個人がどれほど高度な研究テーマに挑みたがっていても、「おまえはこのテーマで博士論文を書け」と言われればそれに従うしかなく、「私の息がかかっているから○○病院の脳外科へ行け」と言われれば、たとえ志望が一般外科であっても脳外科医にならざるをえないというのが現状である。

 

 『白い巨塔』で描かれた強固な権力構造はまだまだ生き残っていて、「上」がいる限り、下っ端医師は自分の進む道を自分で決められないのだ。唱える言葉の正しさよりも唱えた人物の権威がモノをいうのは、どこの組織も同じである。おまけに医学界にはいまだ封建的な徒弟制度など強い縦関係が残っているため、力のある大センセイに逆らってしまうと業界から抹殺されてしまう。権力相手に個を押し通すのは実に困難なことなのだ。

 

 「鶏口となるも牛後となるなかれ」的なノリで町医者を開業するのも難しい。集団検診で確実に利益を上げられる学校指定医などは、地域政治に深く食い込むだけの信用とコネが不可欠であるし、のどかな田舎町に小さな診療所ひとつ開くにしても、設備機器購入のために数千万単位の資金が必要となる。結局、医師として「小さいながらも一国一城の主」となるのにも、親が開業医であるだとか本人の才覚とは無関係な要素がからんでくるのである。神奈川県内の歯科医(地元出身であるが病院開設はこの人の代になってから)は、「60歳過ぎまで頑張って地域に根差すのにも成功し、それなりにうまく経営してきたけれど、娘に跡を継がせようと歯科大に入れたり、自分の胃ガンで長期入院していたら、いつの問にか借金生活に陥っていた」とこぽしていた。「医療技術の高さ」と並んで医師の武器となる「かかりつけ患者の信頼」があっても、跡継ぎ育成費や不慮の疾病で簡単に失ってしまう程度の財しか築けないのである。

 

 ちなみに国公立大学病院に勤務する医師の平均的な収入を例にとると、まず医師免許を取得したばかりの新人時代が月で約35万円、アルバイトも含めて年で700万円ほどだろうか。参考までに、同年齢代=大学院卒の銀行員がだいたい月21万、年336万円(某都市銀行の数字)である。研修が終わって常勤となってもすぐには年収が1000万円を超えることはない。

 

 ベンツを乗り回している金持ち医師なんていうのは、そのほとんどが開業医の2代目だったりするのだ。その開業医も、上流の生活を送れるのは「地方都市の顔役として、代々町の総合病院を経営」なんて環境に生まれた果報者だけ。医学界デビュー~中年の時期までは」般的サラリーマン程度の収入しか望めず、春を迎えるのは上役が年老いて死に、ようやく科(学部)の大御所にまで上り詰めた老年期になってから。副病院長クラスの平均月収が約130万円(50歳代前半の場合)、院長クラスでも約150万円(50歳代中~後半の場合)だというから、なんともささやかな額である。

 

 医師は遅咲きが基本。というか、基本的に年功序列の賃金システムなのだ。金が手に入るころには老後の生活資金や孫の養育費くらいしか使い道がないという、さびしいものなのだ。ふだんみてもらっている総合病院の勤務医や町の開業医をよく観察すれば、これはすぐに理解できる。患者の思い込みとは裏腹に、たいていの医師は「ささやかながらも、多少は余裕のあるレベル」にしか見えないだろう。インテリ型や紳士肌の人が多いために、なんとなく「医師=いい暮らしをしている」との印象があるという、それだけの話なのである。

 

 

 

『知らなかった医薬品業界』より