癌末期患者のQOL向上を目指した試み

 

 末期状態とは、現在の医療技術では治癒の可能性は全くなく死が近い状態である。老衰、成人病などをはじめその原因疾患は沢山あるが、癌の末期状態に対する医療が最大の課題である。癌が身体的苦痛のみならず精神的苦悩が強いためである。これに「癌イコール死」の恐怖が加わる。更にこの苦悩に対処できる医療手段を持ち合わせていない医療者も、患者ともども落ち込んでいく。癌患者は正常であり、「普通の人」である。医療を行っている側と同じ「正常な人」であるが故に、双方に悩みは大きい。リエゾンと称する精神科医の協力には期待が大きいが、当院ではまだ結果は出ていない。癌患者は精神病に罹患しているのではなく、あくまで正常な精神で身体が病んでいるとの認識が大切である。

 

         1.ターミナルケアQOL

 

 多くの人達にとって、癌は苦痛と苦悩に喘ぎながら決して治癒しない死に至る病気と見なされている。死は、誰もが必ず直面する厳粛な事実である。たとえ、死そのものは理解しかなり受容したとしても、死に至るまでの過程には恐怖の念を禁じ得ない。

 

 簡単には出来ないことであるが、死そのものについて、それに至るまでの生き方、生きることの意味などにつき医師と患者は充分理解し合わなければならない。しかし、経口可能な食事の工夫、清潔、消臭、小さな散歩など、手近なことを軽視してはならない。

 

 ターミナルケアとQOLの経過について図1に示した。診断、治療から死に至る一般的な経過を曲線Aに、かなり理想的に経過し成功したターミナルケアを曲線Bに、避けなければならない経過を曲線Cが表している。即ち教科書や、権威者の言うがままに「病気を診て病人を看ず」の医療を行った場合で、悲しいのはこんな症例が多いことである。

 

 ターミナルケアで重要なのは、現在の不快な症状を緩和除去することである。余命のいくばくも無きを考慮し、治療は短期間に強力に完了することを旨とすべきで、軽度な副作用や将来発生が予想される障害を慮るが故に手心を加えてはならない。

 

 この考え方でターミナルケアを行っているが、以下に若干の経験を記してみたい。

 

2。疼痛除去を目的とした放射線治療

 

骨転移による疼痛に放射線治療は卓効を示し、また得られた除痛効果は薬剤によるものより根本的で質も良い。根治性を求めた放射線治療では、正常組織の障害に注意する必要がある。しかしターミナルケアでは、目下の苦痛や疼痛を取り除くことが先決となる。余命が1月しか期待できない患者に、通常の放射線治療方法では間に合わない。

 

 放射線治療は、分割線量を大きくする、即ち1回大線量を短期間に照射することにより効果は大きくなる。これは腫瘍にも正常組織にも当てはまる。この方法をターミナルケアで行うためには、早期に発生する副作用が容認され得るものであることが必要条件で、除痛効果との兼ね合いが問題である。極言すれば、致命的な副作用が起きないぎりぎりの大線量照射により、疼痛消失はこの世で、副作用は来世でとの考えである。我々がこれまでに行ってきた、骨転移による頑固な疼痛に対する放射線治療の結果について略記する。

 

 ① 鎮痛効果の見られ始める最小線量は20Gy前後で、標準照射法(2Gy/日、週5回照射)では約10日を必要とした。

 

 ② 除痛効果発現に必要な最低線量は原発巣により異なり、肺癌が効き難くかった。

 

 ③ 疼痛がほぼ消失する線量は40~50Gyで、この線量(詳しくは等価線量)に如何に早く到達するかが問題である。

 

 ④ この標準照射法と分割線量を大きくした照射法(例:5 Gy/日、3回照射/週、8Gy週1回照射など)とで、鎮痛効果が現れ始める線量、疼痛消失に至る線量、それらに必要な日数を比較すると、いずれも後者がすぐれていた。

 

 ⑤ ターミナルケアでの疼痛除去は緊急を要することが多く、1回線量を大きくする照射法は推奨されてよい方法と考える。

 

 放射線治療は、集学的治療のなかで根治性をもって有効な手段であるが、ターミナルケアでも適応を誤らなければ非常に役立つ。緩和ケア*やターミナルケアで、殊に疼痛緩和、除去が必要な場合、放射線治療医に相談することをお奨めする。

 

       3.ステロイド大量間歇投与の効果

 

 ステロイドには、投与中に多幸感や、何となく陽気な感じなど精神的高揚が見られることがある。落ち込み、暗澹として沈痛状態にある患者に、この作用を利用してみた結果を述べる。使用したステロイド、使用量、使用期間、投与方法が、結果が記入してあるが、勿論このやり方を最適とは考えていない。しかし、食欲、発熱など数値として明確に評価可能なものから、把握、評価の困難な精神状態まで、調査した項目で期待した効果が得られている。○印が投与した日である。「死亡1月前」とは、5日間の薬剤使用後1月以上生存した症例で、これらは投与開始時には1月以上の生存は期待されていない症例がまである。「死亡直前」は、投与中または投与終了後、非常に短期間で生命を終えた症例である。生命力、気力、反応力から前者に効果が高いのは当然である。しかし、ステロイド投与により延命されたと考えられなくもない。実際、経過中に2回の投与を受けた症例では、死に近い時が効果が少なかった。

 *緩和ケア 病そのものに対する根治性は全くないが、癌の転移、進展に伴う疼痛などの症状には処置が可能であり、しかもターミナルケアまでにはなお、かなりの生存期間が期待される。故に、症状の緩和除去により質の良い社会生活への期待が大きい。ターミナルケアが死を直視しながらこれに至るまでの生のケアであるのに対し、緩和ケアは、飽くまで生を見据えたケアと定義している。根治治療とターミナルケアとの中間に位置するもので、癌治療ではこのケアが大切である。