末期癌患者の尿路管理

 

 

 末期癌患者の尿路管理は、尿路に通過障害の存在しない患者に対する処置と、癌進展に伴う上部尿路および下部尿路通過障害を有する患者に対する処置に大別できる。

 

   (I)尿路に通過障害の存在しない患者に対する処置

 

 (a)頻 尿

 

 末期癌患者に認められる頻度の高い症状の一つである。尿量の増加によるものと、そうでないものとに大別できる。前者は糖尿病、慢性腎炎、尿崩症、低カリウム血症や高カルシウム血症などの抗利尿ホルモンに関連する疾患などの合併によるものであり、これらに対する治療が必要となる。後者では膀胱容量の減少と神経因性のものが多い。膀胱容量減少の代表的なものは、膀胱炎と骨盤内放射線照射によって生じた萎縮膀胱である。これらに対しては、抗菌剤および消炎鎮痛剤の投与が有効であり、特に末期癌患者に対しては、消炎鎮痛剤(インダシン坐剤等)の使用が良いと考える。骨盤内手術や脊髄腫蕩が原因の神経因性膀胱による頻尿は、最近様々な有効な治療薬剤が開発されており、末期癌患者でもコントロール可能なことが多い。しかし末期がん患者では検査や服薬が困難なことも少なくなく、このような場合にはカテーテル留置を余儀なくされるが、インダシン坐剤やブスコパン坐剤の定時使用により、その際の不快な症状のコントロールは可能である。

 

 (b)尿失禁

 

 末期になると、筋力の低下、特に骨盤底筋弛緩による腹圧性尿失禁、膀胱炎や神経因性膀胱による尿失禁が発生する。各種薬剤により治療可能なこともあり、また、一部のものには神経ブロックが有効である。しかし頻尿の場合と同様、カテーテル留置となることも少なくない。この際も坐剤の定時使用が有効である。

 

 (c)血 尿

 

 骨盤内放射線照射後の晩期障害の一つである血尿、膀胱タンポナーデは、コントロールが困難な疾患である。軽度ならば、スリーウェイカテーテルを挿入し、レプチラーゼ等を混入した冷生食水で持続膀胱洗滌することにより止血可能である。しかし長期的にみるとほとんどがコントロール不能となり、尿路変更術が必要となる。尿路変更後の膀胱出血に対する処置は、純エタノール注入固定が安全で非常に有効である。我々は膀胱容量の1/2程度の純エタノールを注入し2~3回洗滌後、更に50~100m/の純エタノールを注入して5分間ほど固定する方法を行っている。

 

 また、エンドキサン投与による膀胱出血も少なくない。この場合は、薬剤の投与中止と止血剤およびステロイドの投与が有効である。

 

 (d)排尿困難

 

 末期になり筋力が低下すると、可成りの患者が排尿困難な状態となるが、全身状態も悪化するため、あまり訴えのないことが多い。残尿が多い場合は、定時導尿が必要となる。

 

 (e)疼 痛

 

 尿路に炎症が存在しなくても、頻尿、排尿痛、自発痛を訴える者がいるが、これは癌の神経浸潤によるものであろう。一般に非麻薬系薬剤は無効であることが多く、坐剤は多少有効である。ネ中経ブロックは有効であるが、尿閉または尿失禁となり、カテーテル留置を余儀なくされることが少なくない。

 

  末期患者のカテーテル留置状態

 

 末期癌患者の排尿状態をみるため、干葉県がんセンターにおいて入院死亡した患者のうち、男女それぞれ50名について、死亡前の尿カテーテル留置状態について検索した。いずれも泌尿器疾患以外の患者であり、治療上カテーテル留置が不可欠な神経因性膀胱、膀胱出血、膀胱瘻などの症例および手術死亡例は除外した。

 

 対象とした100例の年齢構成および原発腫瘍部位は、表の如くである。

 

 これらの症例のカテーテル留置期間は、表3の如くであった。カテーテル留置を死亡までしなかったものは21名、死亡前の1~7日間留置したものは28名、8~14日間留置したものは22名、15~21日間留置したものは7名、22日間以上留置したものは22名であった。即ち100名中79名に死亡前に力テーテル留置がなされており、そのうち1/3は1週間以内の留置であった。1週間以内のものの大部分は、バイタルサイン・チェックの一環として実施されたもののようである。これらを除いた8日以上カテーテル留置を必要とした者51名が、前述したような種々の症状等のため尿路管理が必要となったものと考える。

 

 (g)尿カテーテル留置時の注意点

 

 末期時にカテーテル留置を実施している患者の全身状態は悪く、易感染性であるので、感染の予防には充分注意を払わなければならない。即ち閉鎖性尿誘導回路が望ましく、外尿道口は毎日消毒してイソジングル等を塗布して感染の予防を期す必要がある。また、末期には患者の意識レベルが低下しているので、患者が無意識にカテーテルを引張ったり、体動時にカテーテルが牽引されて、尿道損傷が発生することもあり、注意が必要である。従って、バルーン容量は軽度の牽引では抜去しないよう30~50m/の大きいものを使用すべきである。

 

 尿量が減少した長期留置者には、結石の発生する可能性も高く、定期的なカテーテル交換と検査が必要であることは言うまでもない。

 

   (H)癌進展に伴う上部尿路および下部尿路通過障害の存在する患者に対する処置

 

 (a)尿路変更術

 

 千葉県がんセンターにおいて実施した尿路変更術のうち、この手術が姑息的手術として施行された進行末期癌患者91名について検討を加えた。これらの患者はいずれも進行癌患者であるが、癌の進展度から言えば、いわゆる悪液質を呈している末期癌患者ではない。しかし、癌の進行が原因で、そのまま放置すれば近い将来、確実に死に至る状態であることは事実であり、この意味からすれば広義の末期癌と言える。

 

 91名の原疾患は、膀胱癌24名、前立腺癌6名、子宮癌47名、卵巣癌4名、直腸癌3名、その他7名であった。

 

 尿路変更時の診断名は,尿毒症35名,膀胱タンポナーデ19名,無尿18名,膀胱腟炎13名,その他膀胱腸痩等6名であった。尿毒症患者のBUN値は50~70μg/d I 9名,71~100μg/d/15名, 100μg/d以上11名で,手術時,意識レベルが低下していた者も多く,手術の決定に本人の意志が関与していない例も多数存在した。

 

 実施した尿路変更術は,片側尿管痩術40名,両側尿管痩術44名,腎察術7名であった。

 

 尿路変更術後の予後をみると,当然のことながら非常に悪い。生存者は男子1名,女子16名にすぎず,91名中74名81.0%が死亡した。しかし尿路変更術実施時から死亡までの生存期間(表4)をみると,1ヵ月以内の手術死亡者は11名,1~3ヵ月8名,3~6ヵ月18名,6~12ヵ月17名,1~2年11名,2年以上9名であった。尿路変更術を実施しなかったと仮定した場合,尿毒症患者35名,無尿患者18名,膀胱タンポナーデ患者19名の計72名は短期間に死亡したと考えられる。しかし実際には,尿路変更術施行後3ヵ月以内の死亡者が19名であった事実は,癌進展に由来する尿路通過障害を有する末期癌患者に対する尿路変更術の有用性を証しているものと考える。

 

 生存者は17名のみであるが、尿路変更術後、一時退院して家庭復帰が可能であった者は91名中62名存在した。これら62名の家庭復帰期間をみると、3ヵ月以内7名、3~6ヵ月13名、6~12ヵ月11名、1~2年15名、2年以上16名であり、これは想像していたよりも多数で長期間であった。

 

 (b)尿路変更術後の注意点

 

 尿路変更術後は、ウロストーマの管理を十分行うことは言うまでもない。

 

 また、残存している膀胱には感染が存在していることが多く、末期で免疫能が低下している場合は、これが菌血症や敗血症の原病巣となるため、適当な抗生剤を含む生食水による膀胱洗浄を1ヵ月毎に実施することが肝要である。また、膀胱腟瘻や膀胱腸瘻の場合には、更に洗滌回数を頻回にする必要がある。

 

              ま と め

 

 尿路に障害の存在する患者は言うに及ばず、尿路に通過障害の存在しない患者でも、癌末期には、その半数に何らかの尿路の管理が必要となることが判明した。現在末期癌患者の症状コントロールの対象として、尿路管理はあまり重要視されていないようであるが、今後は対象とする必要があると考える。

 

 一方、尿路に癌進展による通過障害のある末期患者の場合は、往々にして積極的な外科的処置をしない傾向にあるが、前述の如く進行癌でも尿路変更により患者の延命が期待でき、想像以上の家庭復帰も可能であった。

 

 また、膀胱タンポナーデ、膀胱腸瘻、膀胱腟瘻などの場合には、症状コントロールのためには尿路変更術が不可欠である。

 

 今後も癌進展に伴う尿路障害に対する尿路変更術は、積極的に実施されるべきものと考える。