癌患者の痛みの自己評価法の有用性とQOLについて

 

 終末期癌患者に対しQuality of life (QOL)を尊重する医療が人々の注目を集めている。痛みを持つ終末期癌患者は、身体的、精神的苦痛のほかに社会的、宗教的、倫理的苦痛を有し、多彩な反応を示す。 QOL を損なう患者の苦痛のうち、最もつらいものが疼痛である。疼痛を除去あるいは緩和させることを最優先させる必要があり、それにより初めて精神的安定が得られ、患者とのコミュニケーションがとれるようになる。疼痛の除去は人間の尊厳性を最後まで保たせるために、QOLの維持、向上に欠かせないものと考えられている1~5)。

 

 痛みの有無や、患者の感じている痛みの度合いを他者(医療者)が測定することは非常に困難である。我々は痛みを持つ終末期癌患者を対象として、患者の痛みを度数化して患者に記録してもらうアセスメント表を作製し、医療者がより的確に患者の痛みを把握し、疼痛コントロールに役立てるとともに、痛みとQOLの関係について検討した9。

 

      (1)痛みのアセスメント表の集計

 

 当院入院中の40例の終末期癌患者を対象とした。集計の結果では多彩な痛みが広範囲に認められた。鎮痛薬使用で痛みがやわらぐという回答が多数あったが、鎮痛薬使用でも痛みが残る、薬が切れると痛いなど、鎮痛薬の投与量、投与方法の見直しの必要がある症例も認められた。また、入浴、体位交換、湿布などのケアにより痛みがやわらぐなど、ケアの重要性も指摘されよう。

 

 膵頭部癌術後で、肝転移、リンパ節転移を認めた69歳の男性である。術後は外来通院中であったが、全身倦怠感、体重減少を認めたため入院した。入院より3週間は、WHO 3段階癌疼痛治療法8)の第1段階の非オピオイド鎮痛薬で疼痛はコントロールされたが、その後はMSコンチンを使用、さらに塩酸モルヒネの持続皮下注に変更した。ペインスコアーは1日を平均したものである。経時的痛みのアセスメント表でペインスコアーが2以上になった時、持続皮下注ポンプの旱送りをすること、またペインスコアー2以上が長時間続く場合は、増量することで徐々に塩酸モルヒネ量は増加した。入院4ヵ月目では、塩酸モルヒネ450mg使用で、疼痛はほぼコントロールされた。

 

 この患者のQOLは、総合QOLで1回目が20、その後徐々に低下して3ヵ月目には26であり、その内容は身体的QOLの低下が主体であり、心理的QOLは3回目に2から3に低下、社会的QOLは7で不変であった。

 

 痛みがゴッドロールされた3ヵ月目頃より、週2回の入浴、院内のレクリエーションなどに積極的に参加し、第三者・医療者側からは病院内生活を満喫しているように思われた。 QOLは患者の主観的判断であり、評価畤の患者の判断基準の変化によっても大きく左右されるものである。判断基準は患者の価値観、患者のおかれている社会的環境、心理状態、また患者の病状把握の度合、予後に対する考え方などがあり、第三者には計り得ない複雑なものである。

 

           (3)症 例 2.

 

 胃癌、S状結腸癌、癌性腹膜炎でMSコンチン90mgイ吏用で入院となった42歳の男性である。痛みがコントロールされず、経時的痛みのアセスメント表の記載を依頼した。アセスメント表から、痛みのピークが午前6時、午後2時頃にあり、またその際、ボルタレン坐薬を使用すると除痛が得られた。入院5日目より痛みのピークの時間帯前にボルタレン坐薬を

 

      使用することで痛みはかなりコントロールされ、7日目よりMSコンチン120mgに増量、痛みはほぼコントロールされ、日中の行動範囲は広がり、夜間の良眠も得られた。

 

             (4)QOLの測定

 

 QOLを左右する項目は無数にあり、その分類も多様である。 QOLの評価は主観的なものであり、患者自身の判断によるものが良いとされている9)。患者にとっていま何か問題なのか、また今後のヶアをどのようにすれば良いかの指標とするために、定期的にQOLを調査した。経時的にQOLを評価するため患者の負担を少なく、そして理解しやすく、集計しやすくするため、カテゴリースケールで10項目について評価を行い点数化した。

 

 ① チームアプローチ

 

 終末期の患者のケアは主治医,看護婦のみで実践しえるものではなく,医療チームでのかかわりが必要である。家族に対するケア,そして家族を含めての患者のケアである。

 

 我々の医療チームは内科医,外科医,放射線科医,麻酔科医と看護婦,医療ソーシャルワーカー( MSW ),栄養士,その他パラメディカルスタッフにより構成されている。医療チームの中で大多数を占め,患者と1日24時間接しているのは看護婦である。看護婦は患者がどんな状態にあっても,その時,その患者がその入らしく尊厳ある生活ができるように,科学的根拠に基づいた専門的技術で援助することである。

 

 MSWは患者の入院時,ときには入院前より患者,家族に面接し,患者の性格,社会的背景,患者と家族が病気をどのように理解しているか,家族が直面している問題,患者の死が家族に及ぼす影響を把握レ患者,家族の相談に応じている。MSWは,これら多くの情報を医療チームに提供する。医療チームにとって,これらの情報は患者を深く理解する上で非常に有用である。

 

 ② 適切な空間

 

 患者,家族の多くが,家庭的な雰囲気の中で人生の最期を安らかに迎えたいと望んでいる。人間は死に至るまで社会的存在であり,社会から隔絶された医療施設の中ではなく,終末期の患者が家族,親しい人々と,その入らしい生を全うするにふさわしい環境が必要である。家族との深い語らいのため,また1人静かに瞑想することの出来る個室,多くのスタッフ,他の患者,友人とのコミュニケーションができる広いロビーが必要である。