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QOL評価法に関する研究

 

 癌による痛みは深刻であり、末期状態に達すると、70%の患者は何らかの痛みに悩む。痛みが続くと、絶望感、悲嘆感、退行現象うつ状態に陥り易い。また外部に向かい、葛藤状態、焦燥感、イライラが続き、ときに医療者や家族に攻撃的な行動をとる。著者はこれまでにQOL評価法として82項目から成る質問紙法を開発し、患者の心理状態を把握できる有用な方法であることを確かめている1)。最近、癌に対する市民の関心が高まり、癌の治療成績が向上した。またWHO癌疼痛治療指針が普及して、モルヒネの使用頻度は増加して、医師が積極的に痛み治療に取り組む姿勢がみられるようになった。そのために、痛みに耐える癌患者も少なくなったとも考えられる。そこで、最近3年間に大学病院に入院して、痛みの治療を行った癌患者の心理状態が以前に比べてどのように変化したかを調べ、QOLの向上につながるかを検討した。

 

             対象と測定法

 

 対象は、千葉大学医学部麻酔科で鎮痛対策の依頼を受けた末期癌患者74例である。コントロールは、国立がんセンター病院で治療を受けた70例である。文章完成法(SCT)は、剌激語(27項目)を患者に提示して、そのあとを最初に頭に浮かんだ事柄でつなぎ、一つの文章を作成させるテストである。

 

 バウムテストは、『1本の樹木を描いてください』と指示して、時間制限はもうけなかった。バウムの判定基準は、樹木の全体像から3群に分類した。A群はサイズの大きい、成熟した、しっかりした安定した樹木を描く症例とした。B群はサイズの小さい、貧弱な樹木を描く症例である。C群はその中間に位置した樹木を描く症例とした。今回の対象とコントロールとの比較はカイ2乗検定を行い、危険率5%をもって有意とした。

 

              結   果

 

 SCTの結果、「これからは」に対して、健康回復、社会復帰、などの願望を述ぺる患者は66例( 89.1% )に認め、コントロールに比べて有意に増加している。「これまでは」の過去の出来事の質問に対して、幸福、成功、安定した生活だったとpositiveな回答と、不幸だったとするnega-tiveな回答が相半ばしてコントロールとほば同様である。「今の私の生活は」には、幸福、安定している回答が29例(32.9% )であり、コントロールに比べて増加している。(pく0.01)「私の人生は」に幸福、成功だった患者は37例(50% )に認め、コントロールに比べて有意ではないが、増加している。「家のひとは私を」に対して、68例(92% )が信頼、親和感をもち、コントロールに比べて有意に増加している。

 

      考   察

 

 死を迎える患者の痛みの治療は、医療者にとって緊張、無力感、心身ともに疲労をもたらす。しかし患者が何を求め、どのように援助してもらいたいのか、また心残りは何かなどを医療者がもし知ることができるのであれば、患者の白助力を支えて、よりよい死を迎えられるような援助をすることができる。しばしば初診時私たち医療者が出会う患者の多くは、自分の気持を言語化できないほど緊張して、ただ痛みだけを取り除いて頂きたいと哀願するだけである。本当の患者の気持を理解することは難しい。患者の表現のイメージを心理テストからそのままの形の表現として受け取るとき、その患者の語りえない、あるいは無意識に語ろうとしない深層心理の存在を知ることができる。著者は二つの心理テストを用い、投影される心理状態を調査した。さきに著者は、鎮痛対策を行っている癌患者70例を対象に心理テストを行い、その結果を報告した2)。すなわち、過去の出来事に対して、幸福、健康、成功なpositiveな回答と、不幸、苦労などnegativeな回答が相半ばしている。また、将来に対してpositiveな回答が多く、B群では中立的回答であり、生きたい願望、生への執着が強いことを示している。

 

 では今回の研究では、この3年間に患者の心理状態はどのように変化したであろうか。(1)SCTから、健康回復、もう一度もとの生活に戻りたいと願う患者が増えてきた。「今の病院の生活」に安定感、ゆっくりしている、快方に向かっているなどpositive言葉が増えている。(2)バウムテストから、貧弱な樹木を描くB群の占める割合が増しており、これらの患者

はSCTから「今の病院の生活」は明るい、落ち着いている、畳一畳の生活を大事にしていると表現している。しかしながらバウム所見からみると、生きることへの精神的なエネルギーを失いかけているし、挫折感が強いことが推測される。(3)C群の患者は前回に比べて少ない。(4)A群は全体的にバランスの整った樹木を描き、その頻度は前回と同じであった。すなわち現状を冷静に評価し、SCTから一人で旅にでたい、家に帰りたい、財産を整理したいなどの表現が多くみられる。

 

 腫瘍学の進歩により、多くの治療方法が開発され、5年生存率も向上した。一般市民も癌=死の恐怖のイメージを失いつつある。テレビや報道などマスコミでも積極的に癌と闘うひとの手記が引用されている。癌の告知にも、市民はアンケート調査に58%が自分に、70. 2%が家族に知らせて欲しいと求めている。今回の対象は前回の癌専門病院ではなく、大学病院であることから、癌患者が良性疾患患者として扱われるし、末期癌患者に希望を与え、鼓舞する可能性がある。以上のことから、患者が未来に対してpositiveな表現を抱き、家族への信頼感、過去に対して反省と成功の相半ばする気持が強いという結果をもたらしたものと考えられる。しかし癌治療が延命効果をもたらし、それだけ痛みとの闘いが長く続くわけで、再発そして死の恐怖に怯える期間も長くなる。このことは、B群の患者が増え、それだけ心理的対応とさらに確実な鎮痛対策が要求されることになる。

 

 今回用いたバウムテストは、患者の心的エネルギー、人間関係、不安、葛藤状態、抑うつなど深層心理をよく反映するので、病める患者の気持をよく理解することができる。 SCTは、患者の考えている気持が具体的に言語化されるのでわかりやすい。また、この二つの心理テストの結果はよく相関するので、総合的に癌患者の気持を把握することができ、患者を支える援助にひとつの方向を示すと考えられる。このことがQOLの向上につながる。

 

             おわりに

 

 痛みをもつ癌患者74例の鎮痛対策の依頼を受けた際、二つの心理テストを行い、3年前に報告した70例と比較した。

 

 (1)SCTから過去の出来事、私の人生に関しては、positiveな回答とnegativeな回答が相半ばして前回の報告と一致した。しかし将来に対して健康回復、社会復帰を希望する患者は増え、今の病院の生活に満足するひとや家族への信頼感が増加している。

 

 (2)一方、バウムテストからみてB群の患者が増えているので、不安、挫折感を抱く患者も多い。A群の患者は前回とほば同じ頻度に認めた。C群の症例は減少した。

 

 (3)前回の報告との差の原因を考察した。